「あの、もしかしてこの鉄格子以外に扉があったりしない?」

考えられることその一。別の扉がある。

「牢獄にそんなものがあるわけなかろう」

隠し通路とかあるかもしれないでしょ!

わたしは必死に隠し通路を探して部屋の中を歩き回った。

もちろんそうしながら別の仮説も立てていた。引き金はやっぱりあのお香だと思う。

わたしが幻覚を見ているにしろ、三百年前のバスティーユ牢獄に飛ばされたにしろ、きっかけはお香なのだ。

箱に入っていたお香に火事の火が引火したなら、全て燃え尽きる頃には元に戻れるはず。

お香の残りはあと何本だったかな。

わたしが考えこんでいる間に、仮面の人はランプに火を入れ、ライティングビューローから何かを取り出した。

「これで少し気持ちが落ち着くはずだ」

その声に聞き覚えがあるような気がしてしかたないし、背中にも見覚えがあるような気がして、何だかおかしな気分になった。

しばらく会っていないおじさんの顔が浮かんでくる。

そう言えばおじさん今パリにいるんだっけ。この近くにいたりするのかな。

もしわたしが本当にバスティーユ牢獄にいるとしての話だけど。