前回までのあらすじ。
種を植えたら一日で芽が出て成長して花が咲いたよ!
「と思ったらすぐ花が萎れちゃったよ、おい」
眼の前でつい先程まで五種類それぞれ赤・青・黄・ピンク・紫の花を咲かせていたはずなのに、その花は見惚れる暇もないほどあっというまに萎れてしまったのだ。
そんな状況に困惑していると、今度は茎から伸びた枝の先に実がなり始めた。
むくむくむくっ。
最初は一ミリ程度だったそれは一気に直径一センチほどまで成長する。
トンデモなく異常な成長速度だ。
もしかしてこれが緑の手の力だというのか。
「おお、もう実が……ってこれ種じゃねーか!」
驚いた事に枝の先にぶら下がるように出来たものは実……ではなく、最初に植えた種と全く同じものにしか見えない。
実をすっ飛ばして種が出来るとはどういう植物なのだろう。
確かに豆系植物というものはある。
しかしあれはサヤになって育つものだろう。
だけれども眼の前にぶら下がっているのは植えた種と寸分変わらない種そのものなのだ。
サヤの中に入っているわけではなくモロ種!
しかも五種類全てがそうなのだ。
あの駄女神、元の世界と同じような野菜の種って話は嘘だったのかよ。
これも緑の手の能力なのかとも一瞬思ったが、流石にそれはないだろう。
それはもう栽培以前の問題になってしまう。
「それとももしかしてこれが実なのか? どんぐりみたいな。でもそれは野菜なのだろうか……」
俺はたわわに実った種を一つ爪でつまんでひねって千切るとそのまま口の中に放り込む。
「う~ん、ちょっとジューシーな感じはするけど基本今朝食った種と変わらないよなぁ」
パリポリ。
パリポリ。
「やっぱりどれもおんなじ味だわ」
パリポリ。
パリポリ。
「ふぅ、腹いっぱいだ」
こんな小さな種を十数個ほど食べただけなのにお腹が膨れてしまう。
昨夜もあれだけ空腹だったのにおつまみ程度食べたら十分だったけど、昨日より少ない個数で腹が膨れたのはとれたて新鮮だからなのだろうか。
しかし一体この種はなんなんだ?
どんぐり系というよりひまわりっぽくもある。
ひまわりの種も美味しいからな。
でもやっぱりそれは『野菜』じゃないと思う。
あの女神様は確実に野菜の種だと言って俺に手渡したはずだ。
「とりあえず一旦全部収穫してしまおう。油断してるとこのまま枯れてしまうかもしれないし」
俺は部屋に戻ると女神様に貰った小袋を五つ持って来てから、それぞれの袋に種類ごとに分けて収穫した種を放り込む。
一本あたり二十個ほどの種の実がなっていただろうか。
種なのに実というのも意味不明だが、枝先にぶら下がっている姿はそうとしか形容できないのだから仕方がない。
これがひまわりのような形だったら違和感はあまりなかっただろうに。
「とりあえずこれで全部収穫できたかな。後は残ったこの茎と葉っぱだけど食べられるかな?」
正直そんなに美味しそうには見えないけれど、二本ずつくらい引っこ抜いて食べてみるか。
俺はそう決めると、一番成長している茎を選んで数本抜き井戸の水で洗った後台所へ。
まな板を取り出して包丁で根の部分を切り取った後に十センチくらいの長さで切りそろえる。
炒めるか茹でるか少し悩んだものの、今回はとりあえず味を見てみるだけなので茹でておひたしにする事にする。
と言っても俺は料理はほとんどした事がないので「なんちゃっておひたし」しか作れないが。
ざっくりと切った茎と葉を一旦水につけておく。
多分これでアク抜きとかいうやつが出来るはずだ。しらんけど。
その間に棚からカセットコンロと鍋を取り出してお湯を沸かし始める。
本当ならコンロはいざというときのために温存しておくべきなのだろうが、今からいちいち火をおこすのは面倒くさいのだ。
何よりさっき種を食べたせいで今はお腹も空いていないしな。
「沸騰したお湯に塩を少し入れるんだっけか。パスタを茹でる時くらいの量でいいかな」
調味料ボックスから食卓塩を取り出しサラサラと流し込む。
よく考えたらこういう調味料もこちらの世界にはあるのだろうか。
黒胡椒とかを黒いダイヤとか呼んでいるような世界だったらこの調味料ボックスの中身を売れば大儲けできるかもな。
大体のものを売ったとして、塩だけあれば問題ないだろうけどその塩も高かったらどうしよう。
岩塩が手に入る土地ならいいが、そうじゃなければかなりの高級品扱いも覚悟しないといけない。
そんな事を考えつつ水にさらしておいた茎と葉を軽く水切りしてから鍋に投入。
菜箸でゆるくかき混ぜながらしんなりしてきたらザルにあけてお湯切りして皿にのせれば完成っと。
「まぁ、こんなもんだろ」
皿の上に青々とした野菜がただ茹でられて盛り付けられている様は『THE 男の雑な料理』としか言いようがない。
料理は母親が使っていたレシピ本でも見ながらそのうち覚えるとして今は試食だ。
「見かけは茎の太いほうれん草のおひたしっぽいけど」
軽く塩味がついているはずなので思い切ってその中の一束を口に放り込む。
「!!!!!!!!!!!!!!!???????????????????」
その瞬間俺の時間は止まった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「はっ!?」
一体何があったのか。
気がつくとあたりはすっかり日が暮れており、どこからか昨夜と同じように遠吠えが聞こえる。
「やばい、これはやばい食い物だ」
吹っ飛んだ記憶が徐々に戻って来ると同時に俺は目の前の皿を手に庭へ飛び出す。
そして目的地である庭の隅の生ゴミ処理ボックスの蓋を勢いよく開けて。
「どらっしゃあああああああ!」
皿ごと放り込む勢いで中身をその中にぶちまけた。
「はぁはぁはぁ……あれはこの世に存在してはいけない食べ物だ」
月明かりの下、井戸水をガブガブ飲みながら俺はそう一人愚痴る。
調理の仕方云々の問題じゃない。
たった一口で瞬間的に意識を持っていかれる食べ物なんて食べ物とは言えない。
「種は普通に美味しいのになぁ」
でもよく考えれば実は美味しくても、それ以外は食べられないものなんて普通だ。
栗だって桃だって本体の木自体は食べられないわけで。
「どっと疲れた……今日はもう風呂とか焚いてる時間もないし種食って寝よう」
そうひとりごちると俺は昨日より明るい月明かりを頼りに部屋へ戻るのだった。
種を植えたら一日で芽が出て成長して花が咲いたよ!
「と思ったらすぐ花が萎れちゃったよ、おい」
眼の前でつい先程まで五種類それぞれ赤・青・黄・ピンク・紫の花を咲かせていたはずなのに、その花は見惚れる暇もないほどあっというまに萎れてしまったのだ。
そんな状況に困惑していると、今度は茎から伸びた枝の先に実がなり始めた。
むくむくむくっ。
最初は一ミリ程度だったそれは一気に直径一センチほどまで成長する。
トンデモなく異常な成長速度だ。
もしかしてこれが緑の手の力だというのか。
「おお、もう実が……ってこれ種じゃねーか!」
驚いた事に枝の先にぶら下がるように出来たものは実……ではなく、最初に植えた種と全く同じものにしか見えない。
実をすっ飛ばして種が出来るとはどういう植物なのだろう。
確かに豆系植物というものはある。
しかしあれはサヤになって育つものだろう。
だけれども眼の前にぶら下がっているのは植えた種と寸分変わらない種そのものなのだ。
サヤの中に入っているわけではなくモロ種!
しかも五種類全てがそうなのだ。
あの駄女神、元の世界と同じような野菜の種って話は嘘だったのかよ。
これも緑の手の能力なのかとも一瞬思ったが、流石にそれはないだろう。
それはもう栽培以前の問題になってしまう。
「それとももしかしてこれが実なのか? どんぐりみたいな。でもそれは野菜なのだろうか……」
俺はたわわに実った種を一つ爪でつまんでひねって千切るとそのまま口の中に放り込む。
「う~ん、ちょっとジューシーな感じはするけど基本今朝食った種と変わらないよなぁ」
パリポリ。
パリポリ。
「やっぱりどれもおんなじ味だわ」
パリポリ。
パリポリ。
「ふぅ、腹いっぱいだ」
こんな小さな種を十数個ほど食べただけなのにお腹が膨れてしまう。
昨夜もあれだけ空腹だったのにおつまみ程度食べたら十分だったけど、昨日より少ない個数で腹が膨れたのはとれたて新鮮だからなのだろうか。
しかし一体この種はなんなんだ?
どんぐり系というよりひまわりっぽくもある。
ひまわりの種も美味しいからな。
でもやっぱりそれは『野菜』じゃないと思う。
あの女神様は確実に野菜の種だと言って俺に手渡したはずだ。
「とりあえず一旦全部収穫してしまおう。油断してるとこのまま枯れてしまうかもしれないし」
俺は部屋に戻ると女神様に貰った小袋を五つ持って来てから、それぞれの袋に種類ごとに分けて収穫した種を放り込む。
一本あたり二十個ほどの種の実がなっていただろうか。
種なのに実というのも意味不明だが、枝先にぶら下がっている姿はそうとしか形容できないのだから仕方がない。
これがひまわりのような形だったら違和感はあまりなかっただろうに。
「とりあえずこれで全部収穫できたかな。後は残ったこの茎と葉っぱだけど食べられるかな?」
正直そんなに美味しそうには見えないけれど、二本ずつくらい引っこ抜いて食べてみるか。
俺はそう決めると、一番成長している茎を選んで数本抜き井戸の水で洗った後台所へ。
まな板を取り出して包丁で根の部分を切り取った後に十センチくらいの長さで切りそろえる。
炒めるか茹でるか少し悩んだものの、今回はとりあえず味を見てみるだけなので茹でておひたしにする事にする。
と言っても俺は料理はほとんどした事がないので「なんちゃっておひたし」しか作れないが。
ざっくりと切った茎と葉を一旦水につけておく。
多分これでアク抜きとかいうやつが出来るはずだ。しらんけど。
その間に棚からカセットコンロと鍋を取り出してお湯を沸かし始める。
本当ならコンロはいざというときのために温存しておくべきなのだろうが、今からいちいち火をおこすのは面倒くさいのだ。
何よりさっき種を食べたせいで今はお腹も空いていないしな。
「沸騰したお湯に塩を少し入れるんだっけか。パスタを茹でる時くらいの量でいいかな」
調味料ボックスから食卓塩を取り出しサラサラと流し込む。
よく考えたらこういう調味料もこちらの世界にはあるのだろうか。
黒胡椒とかを黒いダイヤとか呼んでいるような世界だったらこの調味料ボックスの中身を売れば大儲けできるかもな。
大体のものを売ったとして、塩だけあれば問題ないだろうけどその塩も高かったらどうしよう。
岩塩が手に入る土地ならいいが、そうじゃなければかなりの高級品扱いも覚悟しないといけない。
そんな事を考えつつ水にさらしておいた茎と葉を軽く水切りしてから鍋に投入。
菜箸でゆるくかき混ぜながらしんなりしてきたらザルにあけてお湯切りして皿にのせれば完成っと。
「まぁ、こんなもんだろ」
皿の上に青々とした野菜がただ茹でられて盛り付けられている様は『THE 男の雑な料理』としか言いようがない。
料理は母親が使っていたレシピ本でも見ながらそのうち覚えるとして今は試食だ。
「見かけは茎の太いほうれん草のおひたしっぽいけど」
軽く塩味がついているはずなので思い切ってその中の一束を口に放り込む。
「!!!!!!!!!!!!!!!???????????????????」
その瞬間俺の時間は止まった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「はっ!?」
一体何があったのか。
気がつくとあたりはすっかり日が暮れており、どこからか昨夜と同じように遠吠えが聞こえる。
「やばい、これはやばい食い物だ」
吹っ飛んだ記憶が徐々に戻って来ると同時に俺は目の前の皿を手に庭へ飛び出す。
そして目的地である庭の隅の生ゴミ処理ボックスの蓋を勢いよく開けて。
「どらっしゃあああああああ!」
皿ごと放り込む勢いで中身をその中にぶちまけた。
「はぁはぁはぁ……あれはこの世に存在してはいけない食べ物だ」
月明かりの下、井戸水をガブガブ飲みながら俺はそう一人愚痴る。
調理の仕方云々の問題じゃない。
たった一口で瞬間的に意識を持っていかれる食べ物なんて食べ物とは言えない。
「種は普通に美味しいのになぁ」
でもよく考えれば実は美味しくても、それ以外は食べられないものなんて普通だ。
栗だって桃だって本体の木自体は食べられないわけで。
「どっと疲れた……今日はもう風呂とか焚いてる時間もないし種食って寝よう」
そうひとりごちると俺は昨日より明るい月明かりを頼りに部屋へ戻るのだった。