今思えば、それは心の奥深くに根付いていた聖女の義務感だったかもしれない。
 だけどこの気持ちは、確かに彼女が抱いていたことだ。
 しかし冒険者になっても、上手くいかなかった。

 ──ポンコツ治癒士。

 そう蔑まれ、どこのパーティーにも入れてもらえなかった。
 泣きたかった。
 弱い自分を呪いたくなった。
 死にたくなった。
 そんな時──シンディーはフィルに出会ったのだった。
(フィルさんがわたしの才能を見出してくれて……わたしのことを素晴らしい魔法使いと言ってくれた。嬉しかったなあ)
 フィルの笑顔が好きだった。
 だが、今の彼の笑顔は違う。
 笑ってはいるが、全てを諦めた者だけが浮かべるものだったからだ。
(あんなのはフィルさんじゃない)
 フィルはいつも前を向き続けていた。
 あんなに強いのに、誰よりも努力していた。