ベルの姿は見えない──けれど声は聞こえる。
 それを聞いて、シンディーは全てを思い出した。
「そうだ……わたしは聖女一族……魔神を封印する術……」
 頭に流れ込んでくる記憶は驚愕のものであった。
 しかしシンディーに驚いている余裕はない。
 フィルの胸が魔剣によって貫かれ、彼は今にも死にそうになっているからだ。
(どうしてフィルさんはあんなに強いのに、傷だらけなんだろう?)
 リオネルの攻撃が直撃したせいで、意識が朦朧としている。
 しかしフィルが自分の胸に剣を突き立て、穏やかな笑みを浮かべているのを見ると、シンディーの中に素朴な疑問が生まれた。
(そうだ。この人は他人を守るためなら、自分を犠牲にする。自分に厳しく他人に甘い。わたしはフィルさんに、いつも幸せを貰ってばっかりだった)
 誰かを守るために冒険者になった。