お風呂場では湯気も多く、かつ彼女自身も緊張していたため、この事実に気が付かなかった。
 昨日のフィルの姿が今と重なって、シンディーは頭に血が上っていくのを感じた。
「ん? どうしたの、シンディー。あっ……もしかして、ちょっと汗臭いかな?」
「そ、そんなことありません! 良い匂いです!」
 実際、汗だくだというのに、フィルからは爽やかな香りが漂っていた。
「あ、朝なのに、こんなことをしていたんですか?」
「うーん、昔から日課でね。癖になっているんだ。今となっては、やらないと落ち着かない」
 とフィルは苦笑する。
「ちなみに……具体的には腕立て伏せは何回くらい?」
「千回だね。あっ、腕立て伏せだけじゃなくて、腹筋とスクワットも千回ずつだ。朝だからこれくらいの軽いメニューにしとこっかなって思って」
「千回は軽くありませんよ!」
 シンディーは語気を強くする。