僕の奥底に眠っていた『男』としての獣がゆっくりと目を開け、彼女に牙を剥こうとしている。
 今すぐにでも消し飛んでしまいそうな理性を寸前のところで手繰り寄せ、僕は己(おの)が体を必死に律していた。
 
 ──冷静になれ。
 シンディーの体に集中しているから、こうして感情を揺さぶられるんだ。
 こういう時は自分の体に意識を移し、血流や筋肉の微細な動きに神経を尖らせろ。
 そうすれば冷静さが甦り、獰猛な獣を閉じ込めることが出来る──。

「あれ?」
 声を漏らす。
 その時、僕は今の自分の体に起こっている変化に気が付いた。
 それが分かった瞬間、男としての獣など跡形もなく木っ端微塵となり、代わりにあるのは優れた剣技を見た時にも似た興奮だった。
「シンディー!」
「ひゃ、ひゃい!?」
 僕が急にシンディーの両肩を掴んだためか、彼女が変な声を出す。