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 五条の屋敷に到着し、私だけが先に下りた。

 急な訪問で叔母を驚かせてしまうからと。説明しようとしたものの。

「まあ、なんなのその恰好はみっともない!」と、邸に上がる前に、いきなり怒鳴られた。

「邸が汚れるでしょ! 上がらないで」

 叔母と従姉妹の山吹(やまぶき)簀子(すのこ)に立ち、食いつかんばかりに睨み「おおいやだ。向こうへ行って!」と奥に行ってしまった。

「あ、あの……」と言いかけたが、梅女が「姫さま」と左右に首を振る。

「とりあえず頭中将には帰っていただきましょう」

「うん……。そうね」
 今この状態では話などできそうもない。
 送ってくれた礼だけ言おうと、肩を落とした。

「せっかく女房のお話をいただいたのに」と呟くと梅女が顔色を変えた。
「姫さま、いっそ頭中将についていってはいかがですか?」

「だめよ、勝手に行ったりしたらどうなるか」

 この家に帰れなくなる。
 それに一緒に行けない梅女と末吉が心配だ。

「どうかしたか?」
 いつの間にか、頭中将がそこにいた。

「いえ、あの。今日のところは……」

 頭を下げて、帰ってもらおうとすると、「まあ!」と御簾の内側から大きな叔母の声がする。

「梅女」と呼ばれて、叔母は梅女から事情を説明されたらしい。叔母の侍女が飛んできて「さあさあ、どうぞ」と頭中将を招いた。