***


「汚れてしまいますよ?」
「洗えば落ちる」

 でも……。
 灰袋を投げつけたときに、自分も被ってしまった。朝霧さまの美しい衣が汚れてしまうのは忍びない。

「しっかりと捕まらないと落ちるぞ」

「はい。馬の背って、結構高いのですね」
 ふと下を見て怖くなり、朝霧さまにしがみつく。

 これからどうなるのだろう。
 助けてもらったけれど、戻ったら……。

「希々の父君が誰なのかわかってな」
「え?」

「父君は大怪我を負って、そなたの母に会いにいけなかったそうだ。残念だがそのまま還らぬ人に」
 言いながら私を抱く朝霧さま左手に力が入った。

「母君は捨てられたのではなかったぞ」

「そうでしたか……」

 母はいま頃、常世の国で父君と幸せに暮らしているのだろうか。
 それならば、それで……。
 頭から被った衣の中で、涙が溢れた。