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「足の悪い爺と、女のふたり組を見なかったか?」
「ああ、その三人ならあっちに」
馬を走らせるうち、後ろから声がした。
「朝霧さま」
馬の背で振り返れば、彦丸のほか従者が追っている。
「嵯峨野です!」
「わかった!」
林の中に入ると悲鳴が聞こえた。
「やめて!」
急げ、急げ!
ヒヒーン。
いた!
梅女と末吉が、男たちに縛られている。
「朝霧さま! 姫さまが、あ、あの牛車に」
男は三人、その先の牛車の前にふたり。
馬から降りて刀を手にする。
鞘を抜き、ゆっくりと刀を構えた。
「手加減はしない。覚悟するんだな」
「ははっ。うらなりの貴族さまがなにを言ってるんだか」
男たちがそれぞれの武器を構える。刀、短剣、鎌。こいつらは何者なんだ。
まあ、何者だろうが関係ないが。
「うりゃー」
威勢よく向かってきた鎌の男を斬り捨てるのと、牛車から「うわっ」という男の悲鳴が上がるのは同時だった。
「希々!」
刀の男をなぎ倒して牛車へと走る。
「朝霧さまっ!」
「まだ、牛車から出るな」
言いながら中を覗いた。
ん?
思わず笑いながら男ふたりを峰打ちする。
「うっ」と言ったきり、なんのことはない、ふたりともあっけなく気絶した。
「朝霧さま」
ぴょんと牛車から降り立った希々は満面の笑みで「すごいですっ」と手を叩く。
いやいや、すごいのはお前だろう。
牛車を覗けば、毛野少将と思われる男が、灰まみれになっていた。