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「ごめんね、末吉。急がせちゃって。足大丈夫?」
明日の予定だったけれど、そうはいかなくなった。朝霧さまがくる前にと、慌てて三条の邸を出てきたのだ。
「なんのなんの。平気ですよ。天気がよくて気持ちがいいですな」
「私も、ちょうど旅をしたいと思っていましたから、うれしいです姫さま」
ふたりは私を元気づけようと笑顔でいてくれるけれど、不安じゃないはずがない。
五条の屋敷を出たときは、朝霧さまという心強い支えがあった。
でも今回は、本当に帰る場所もない。
「そう落ち込まずとも」
「え? いやね末吉、私は落ち込んでなんていないわよ。ふふ」
向かうは嵯峨野。
田畑を抜け、林に入ると末吉が歌を歌い出す。
「ツバメが、ピーヒョロ」
続けて梅女、そして私も歌い始めた。
「ピーヒョロ、ピー」
季節はもうすぐ夏だ。これが冬ならば寂しいけれど、家を手に入れて雨梅雨さえしのげればつらくはない。
そう思ううちだんだんと気持ちも上がってくる。
「私、行きたいところを思い出したわ! 海よ」
「ほぉ、海」
「見てみたいと思わない?」
梅女も「いいですね、姫さま、行きましょう海」と言ったときだった。
竹林の中から、ぬうっと男たちが現れたのである。
「へっへっへ」
「な、なんだお前たちは」