「弟がその女性を秘した理由は、守りたかったからだろう」

 皇太后は主上が帝になりようやく安心したのか、表舞台からは身を退いているが、いまだ権力を放棄したわけではないと聞く。

「姫がいるとか?」
「はい。色々ありまして、今我が家に」

「そうか元気でいるのか?」
「ええ、名は希々と申しまして、明るくて心優しい姫でございます」

「よかった。それは……本当に、よかった」

 ふいに「そうじゃ」と声を上げた主上は、「女五宮じゃが」と言う。

「斎王にしようと思う」
「え?」

「伊勢の現斎王が、病に倒れてな。女五宮とも話したがあの子は行ってみたいと言うのだ。ずっと外の世界を見てみたいと言っていたから」

「そうですか」
「そちの父に是非と言われていたが、そういうわけで朝霧よ、姫を、希々を頼む。誰よりも幸せにしてあげてたもれ」

「はい。間違いなく」
 



 希々は、源氏の月と言われたお方の忘れ形見だったのだ。

 喜べ、希々、母君もお前も捨てられてはいなかったぞ。

 一刻も早く伝えたかった。
 それなのに――。
「どういうことだ」

 希々がいない。

「待てと言ったのに」

「朝霧さま?」

「彦丸、希々の父は源氏の月君だった」
「え?」

「希々を探せ。頼む、希々を」