「朝霧さまよろしいですか?」
「彦丸か、どうした?」

「東宮より、こちらを」
 几帳の下から差し出されたのは文だ。

「希々、よいか。ここを動くなよ?」
「はい」
「すぐに戻るから、絶対に行くなよ?」
「大丈夫ですよ」と笑う明るい笑顔を信じた。


 文には急ぎ話がある。すぐに来るようにと書いてあった。
 もしかすると、なにかわかるかもしれない。

 石帯の話をしたとき、東宮は心当たりがある様子を見せた。
 それ以上はと口をつぐみ、少し待って欲しいと言っていたのである。

 希々が生まれた当時を知っているのは、唯一、末吉だ。
 末吉が言うには、希々の母と父とは三日夜餅の祝いを交わしている。

 だが、素性をあかせない理由があったらしく、正式に公表するのは後ほどと聞かされていた。

『お邸がどこかはわからないの』と、希々の母は言ったという。

 本当なのか、なにかを隠しているのか最後まで語らなかった。
 普通に聞けば短い恋だったのかと思うだろうが、末吉は絶対に違うと言う。

『立派な公達だったのです。わしらにまで優しくて。きっとなにかあったのだ』

 末吉の予想通りであれば理由は限られてくる。
 行けない状態になったか。怪我や病、最悪の場合あるいは死も考えられる。