普通であれば通りから低木の萩が見えたりしない。どんなにたくさん植えてあっても、人の口にのぼりはしないのだ。

 要するに侮蔑を込めての〝五条の萩〟である。

 公達も内心、あの貧乏邸の姫かと後悔しているだろう。

 今さら降りろと言っても遅いわよ。悪いのはこの牛車とバカにしたあなたの牛飼いなんだからと開き直った。

 でも、彼は首を傾げただけだった。

「希々姫、今日はどちらにお出掛けであったのだ?」

「東市です」
「牛車も使わずにか?」

 瞳に蔑んだ色がないところをみると、どうやらバカにしているわけではなく、ただ疑問に思っているらしい。

「我が家には、牛車がないからでございますよ?」

 ほかにどんな理由があるのかむしろ聞きたいが、彼は「そうなのか」と納得したようだ。

「して、今日は何を買いに?」
「買いにではなく、売りに行ったのです」

「ほぉ、なにを売りに?」

 興味津々とばかり身を乗り出して聞いてくる。
 貧乏貴族の生態でも知りたいのだろうか。

「仕立てた衣を売り、油と叔母の衣とだんごを買いました。だんごは私のお腹の中です」

 言うだけ言って眉間をひそめると、公達は顎を上げて「あはは」と笑う。
「すまぬすまぬ」と口では言うが、ちっともすまなそうじゃない。

 本当に失礼な人である。

「内職とは大変だな」
「はい。働かねば食べていかれませんので」