次の日、その不安が形となって現れた。
用事あって出かけるという朝霧さまに送ってもらい三条の邸に戻ったとき、右大臣家の家司さまが私に会いに来たのである。
「あの……それはどういう」
「二度と一条の屋敷には来ないようにという右大臣さまからの命令である」
あ、やっぱり……。
右大臣家の家司が、わざわざ来るからにはいい話ではないと思った。
だから驚きはしなかった。
でも、悲しさは抑えられない。こみ上げる思いに喉が締めつけられる。
「ついては、身を隠してほしい」
「え?」
「空気がきれいな須磨あたりはどうだ? 田舎でのんびりしたいのであろう? これは今まで働いた分の俸禄じゃ」
家司さまが床に置き、中身が見えるように差し出した袋からキラリと輝く砂金が見えた。
「これだけあれば、困らぬであろう」
では、朝霧さまにはもう――。
「希々。そなたはよく働いてくれた。残念だが、わかってくれ」
「家司さま……」
普段厳しい家司さまが、心苦しそうに眉尻を下げている。
「朝霧さまは藤原家にとって必要な方なのだ。そなたを辞めさせない限り朝霧さまは一条の屋敷から出て行かねばならない」
「えっ、朝霧さまが?」
「ああ。他にも男君はいらっしゃるのでな」
確か朝霧さまには弟君がいると聞いた。