「末吉、足はどう?」
「大丈夫です。ここに来てから皆がよくしてくれるんで、体がなまってしまいそうですわ」

「あはは、それはよかった」
「足の痛みを和らげる薬草までもらって、本当にありがたいことで」

「姫さま、頭中将さまはとてもいい方ですね。私、姫さまと一緒にずっとここにいたいです」
「うん。そうね、私もよ」

 でも、続くはずはないと、心のどこかで声がする。
 ここは私の家ではないから……。

「それにしてもあの女、不思議なほど静かですね。この前買い物のついでに五条の屋敷の前を通りましたが、ひっそりとしていました。庭は荒れ放題で」

 末吉も「てっきり押し掛けてくると思ったが」と首を傾げる。
 うなずきながら「強く出られない、なにか理由があるんだわ」と梅女が言った。

「それでも、黙って大人しくしているはずかないですよ。気をつけましょう」
「そうじゃ。あの強欲どもが、あの家を乗っ取っただけで満足するはずがない」

 ふたりの話を聞きながら五条の我が家を思った。

「萩は無事かしら」
 母が大切にしていた萩。雑草を取り、手入れをしていたのは私たちだ。

「それが背の高い雑草のせいで、よく見えなかったんですよ」

 多くは望まない。
 三人で穏やかに過ごせるなら、このままで十分だ。

 というよりはむしろ、幸せ過ぎるくらいで不安で仕方ない。
 いっそ、叔母がなにかしてくれた方がホッとする、そう思うのは私は不幸に慣れてしまっているからなのか……。