「えー、せっかく皆様と仲よくなれましたのにー」
膨らんだ頬をつつくと、希々は息を吹きながら笑う。
「あ、そういえば今夜は満月ですね」
「ああ。たまには三条で月見でもするか。天気もいいからよく見えるだろう」
目を丸くした希々は破顔する。
「うわ、うれしい。梅女も末吉も喜びますよ」
牛車をそのまま三条に向かわせた。
日は明るく月見にはまだ早いが、ときにはのんびりとするのもいい。
三条に着くと、久しぶり琵琶を弾いて夕闇を待った。
聞きながら希々が裁縫をはじめた。
「へぇ、上手なもんだな」
琵琶を置いて希々の手もとを覗く。
「ああもう、恥ずかしいから見たらいけませんよ」
「いいではないか」
いくらかよくなってきたが、荒れた指先である。
貴族の姫だというのに……。
「朝霧さま、女五宮さまはおやさしくてとても素敵な方でいらっしゃいますよ」
ぎろりと睨むと、希々はくすっと笑う。
「またそんなお顔をして」
「それはそうと、まさか恋文などもらっていないだろうな」
「え? 私がですか?」
うっすらだが希々は頬を染めた。
視線もわかりやすいほど泳いでいる。
「誰にもらったのだ。見せてみろ」
「で、でも」
「ほら、早く」
逃げようとする希々を押さえこんだ。
「きゃはは、やめてくださいよ」
ついでだからと「こうしてやる」と、くすぐっているうちに、体をひねった希々の白いうなじが目に止まった。
「朝霧さま、くすぐったいです」
希々……。
「妻を娶って欲しいのか?」
「――朝霧、さま?」
じっと見つめ合った。
まぶたを閉じ、高鳴る己の気持ちを沈めてから、ゆっくりと希々の体を離した。
「希々、恋文などだめだからな」
もごもごと口ごもりながら希々は小さく言った。
「では、見てください」
懐からぱらぱらと小さく結ばれた文を出す。
「こんなにもらったのか?」
開けて見てみると――。