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 十二単は予想以上に重たい。
 そろそろと回って、朝霧さまに全身を見せた。

「いかがですか? おかしなところはございませんか?」
 どこかに不首尾があって、主人の朝霧さまに恥をかかせてはいけないし。

 上から下まで念入りに見た朝霧さまは、大きくうなずく。
「うむ。悪くはない」

 よかった。
「では、行って参ります」

「ああ、がんばれよ。(ひつじ)の刻に後涼殿でな」

 行きと帰りは朝霧さまと一緒という約束だ。
「はーい。わかりました」

 ここは雷鳴壺と呼ばれる後宮の最奥にある殿舎で、女五宮さまの後座所だという。

 朝霧さまを見送って振り返ると、女官が数人いた。

「頭中将か」
「ほんに美しい」
 口々に褒め称えた女官たちは、首を伸ばして朝霧さまの後ろ姿を追っている。もう見えないだろうに。

 そのうちのひとりが一歩前に出た。
「希々であったな?」
「はい。よろしくお願いします」

「そなた、頭中将はどういう関係なのじゃ?」
「私は朝霧さまの遠縁の者で、右大臣さまのお屋敷で女房をしております」

 朝霧さまに言われた通りに答えた。
 五条の萩を口にして、万がいち叔母の耳に入ると厄介だという配慮からだ。

「羨ましいわ」とひとりが言い、別のひとりが「私も侍女になりたいわ」とため息をついた。
「でも女嫌いなのよね」