数年前、左大臣家の長男が女二宮を娶った。たってと願い出て迎い入れたものの、女二宮は大層気性が荒く、先にいた妻と息子を殴り殺すという事件を起こした。

 しかも、人の目のある葵祭での出来事だ。
 左大臣家はなんとかうやむやにごまかしたが、以来暗い陰を落としている。

「――うむ」
 父にも思うところあったらしく、強引にはすすめてこなかった。

「返事はせずにおく。よく調べてみろ」
「はい」


 東の対を出て、ため息をついた。
 ああは言ったが、女五宮にはこれといって悪い噂はない。

 女二宮の場合は密かな噂があったのだ。隠そうとしても人の口に蓋はできない。身内である東宮もそれとなく漏らしていたのである。

 だが、女五宮にはそれがない。

「お受けしないのでございますか?」

 ひょっこりと首を伸ばし上目遣いの希々が、心配そうに覗き込む。
 返事の代わりに斜に睨むと、希々は頬を膨らませた。

「素晴らしいお話なのに」

「自分はあれこれ条件をつけるというのに、皇女というだけで絶賛するとは随分勝手だな」

「だって」と希々は反論する。

「皇女さまがご結婚できるお相手は公卿さまでないといけませんでしょ? 朝霧さま以外にどなたがいます?」

 希々の言う通りだ。皇女ともなると結婚相手は限られてくる。