「なにかあったのか?」
「大変なのでございますよ! 朝霧さまに結婚のお話が」

 ん?

「さあさあ、右大臣さまがお待ちですよ」

「希々が興奮することないだろう?」
「でも、素晴らしいお話なんですってよ」

 なにが素晴らしいものか。
 毎回きっぱりと断っているのに、父もよく懲りもせずに持ち込んでくるものだ。

 とはいえ無視もできず、父が待つという東の対に向かう。

「なぜ寝殿ではなく、東の対などにいるのだ」
「酉の方角の大陰神(だいおんじん)さまを避けるためだそうですよ。縁談がうまくいくようにって」

 父はやたらと占うので、面倒この上ない。やれやれと溜め息が漏れる。

 行ってみると前触れでもあったのか、父は簀子まで出てきていた。
「おお、帰ったか帰ったか」と相好を崩す。

「何事ですか」
「朝霧よ喜べ。皇太后さまから女五宮はどうかと話があったぞ。今まで縁談を断り続けた甲斐があったのぉ」

「女五宮というと……」
 帝には生存する三人の姫がいる。皇女、女五宮は、いったいなん歳だ?
「まだ童女では?」

「なにを言う。とっくに裳着を済ませて十六になられる。この話進めるからな」

「お待ちください」
「なんじゃ」

「父君、女二宮さまのような例もあります。少し調べてからでも遅くないのでは?」

 わずかに父の表情が堅くなる。