「色目も使わぬし、よく動き回るので重宝している」

 彦丸などは男には強いが、女官や女房どもにはどうも弱くていけない。
 しっかりと断ってくるよう申しつけるのに、まんまと丸め込まれて手土産までもらって帰ってきたりする。

 その点、希々はたいしたものだ。
 断った上で手土産だけはもらってくるという、ちゃっかり者である。

「この前も招かれた宴を断りに行かせたのだが、干し鮑を山盛りもらってきたのだ。どうしたのかと聞くと『麦茶と一緒に出していただいたので、おいしいと褒めたら、くださったのです』という」

「なんだそれは、褒め方がうまいのか?」

「彦丸の話では、ぱんぱんに頬を膨らませて、満面の笑みで美味そうに食べるものだから、つい持たせたくなるんでしょうとな」

「あはは、それはかわいいな。評判が立つのも当然だ」

 おまけに希々は、美貌の母の娘と言われるだけあって美人である。
 そう。あれで色気が加われば……と想像し胸の奥がざわついた。

「まだ、子どもなのだ」
 色気など希々には必要ない、結婚などまだまだ先でいい。


 邸に帰ると、希々がパタパタと飛ぶようにやってきた。

 相変わらず子どものような様子に密かに笑う。
 これでよい。結婚なんてせずとも。

「お帰りなさいませ!」
 頬を赤く染めたりして、なにを興奮しているんだか。
 おおかた庭の花が咲いたとか、そんな話だろうと思いながら沓を脱いだ。