言い寄る男は多かったらしいが、彼女の両親、すなわち希々の祖父母が厳しかった。それなのに、いつの間にか娘を生んでいた。
 それが希々だ。

「その姫だ」

「ほう。よく近づけたな。あの屋敷は誰も入れぬのではなかったのか?」

 希々の祖父母が亡くなってからも、しっかりものの家司がいて誰も寄せ付けなかった。その家司も亡くなり、いつの間にか今度は別の強面の下人が門の前に立ちはだかるようになったという噂を聞いている。

 希々を監視していた男たちのことだろう。

「実はな――」
 斯く斯く然々と、事情を説明した。

「ん? となると未亡人は亡くなっていたのか?」
「ああ、妹と名乗る女が入り込んでいる。今調べているが、色々と怪しい」

 最初、希々に聞いたときは、噂の未亡人は亡くなっていたのかと思っただけだった。

 調べればわかるとしても、有力貴族でもなければ人の死は案外伝わらない。女所帯であればなおさらだ。

「もしや、妹ではないというのか?」
「あるいはな」

 可能性はある。
 希々の母と叔母とは長く交流がなかったらしい。
 幼児であった希々の記憶は曖昧だし、末吉は下人ゆえに本物の叔母とは会っていないのだ。

 それでも家の事情をよく知っていたし疑いはしなかっというが。

 女が本当の叔母なら家を取り返すのは難しい。
 偽者であるにしても証拠がなく、情報が足りない。四方に手を回し調べているが、どこまで掴めるか。

 はぁ。

「姫は、その女に侍女以下の扱いを受けていたのだ」
「なんと」

「なのに元気溌剌としていて太陽のように明るい。健気ないい子でな」
「ほぉ」