どっかりと腰を下ろすと、東宮は呆れたように鼻で笑う。

「大の女嫌いがなにを言ってるんだか」

「それとは違うぞ。近づけないだけで別に泣かせてはおらん」

 ははっと笑った東宮は「違う意味で泣かせているじゃないか」とのたまった。
「今日も嘆きが聞こえてきたぞ。おぬし、目の前で倒れた女官を助けず素通りしたそうではないか」

「ああ、あれか」
 簀子を歩いていると、すれ違いざまに女官が転んだ。というか――。

「これみよがしに横になったのだ。構っていられるか」

 あーれー、と声を上げて、そろりとゆっくり簀子に這いつくばったのだ。
 あれは倒れたとは言わぬ、寝たのだ。くだらない。

「して、珍しく女房を連れ歩いているそうだな」

 またその話か。
 この男、女の園で暮らしているだけあって情報通だ。信頼を寄せている女官もいるようだから、なんでも集まってくるのだろう。

「かわいいと蔵人らも騒がしくしていたぞ。どこで見つけたのだ」

「六条大路で拾ったのさ」
「拾った?」

 興味深そうに東宮は、柱から離れて正面に向き直る。

「五条の萩、知っているだろう? 美貌の未亡人と姫が住んでいるという噂の」
「ああ、誰の妻かわからぬ美しい女人がいるという」

 その通り。希々の家は京中の貴族なら恐らく誰もが知っている。
 希々の母は、若き頃に五節の舞姫をしていて、大層な美貌で知られているのだ。