「そうそう、髪は長く艶やかで、ちらりと見える目はにこにこと愛らしく、実によい姫ですな」
野獣たちめ。
いつの間に品定めをしていのか、声も鈴のようだと誰かが言う。
「あの姫はどちらの? 恋人などはおるのですか?」
ふん。おぬしらには希々はやらんわ。
「だめだだめだ。あれはまだ子どもだから、男は早い。恋文など寄越したら破り捨てるぞ」
ぎろりと睨みをきかさて牽制する。どいつもこいつも、こと女に関しては話にならん。
「そんなご無体な」
やかましい男たちを無視していると「頭中将はおいでか?」と声がした。
「なにか?」
「東宮がお呼びでございます」
東宮とは歳が同じでもあり、元服前からの友人だ。
彼の母君が我が藤原一族出身ということもあり、官位の壁を超え、変わらず親しくしている。
「やあ。宿直だと聞いたのでな。どうだ、一杯やらぬか」
柱に背を預け、片膝をついて月を眺めているこの男にも、そういえば妻がいない。
臣下に下る気満々で、現在九歳の弟皇子が成人すれば東宮の座を明け渡すつもりでいて、妻はそれからと決めているらしい。
あと三年か。
この男ならばあるいはと、ふと思う。
身分の問題はあるとしても。
「どうした、浮かぬ様子だな」
「ろくな男がおらぬと思ってな。女をなんだと思っているんだか」
野獣たちめ。
いつの間に品定めをしていのか、声も鈴のようだと誰かが言う。
「あの姫はどちらの? 恋人などはおるのですか?」
ふん。おぬしらには希々はやらんわ。
「だめだだめだ。あれはまだ子どもだから、男は早い。恋文など寄越したら破り捨てるぞ」
ぎろりと睨みをきかさて牽制する。どいつもこいつも、こと女に関しては話にならん。
「そんなご無体な」
やかましい男たちを無視していると「頭中将はおいでか?」と声がした。
「なにか?」
「東宮がお呼びでございます」
東宮とは歳が同じでもあり、元服前からの友人だ。
彼の母君が我が藤原一族出身ということもあり、官位の壁を超え、変わらず親しくしている。
「やあ。宿直だと聞いたのでな。どうだ、一杯やらぬか」
柱に背を預け、片膝をついて月を眺めているこの男にも、そういえば妻がいない。
臣下に下る気満々で、現在九歳の弟皇子が成人すれば東宮の座を明け渡すつもりでいて、妻はそれからと決めているらしい。
あと三年か。
この男ならばあるいはと、ふと思う。
身分の問題はあるとしても。
「どうした、浮かぬ様子だな」
「ろくな男がおらぬと思ってな。女をなんだと思っているんだか」