「起きてください朝霧さま」

 長い睫毛に高い鼻、綺麗な寝顔ですねぇと感心するやら呆れるやら。

「朝議に遅れてしまいますよ」

 手を伸ばしてギュッと鼻をつまんだ。
 くっくっく。
 どうですか、苦しいでしょ。さっさと起きてくださいね。

 逃げ道は確保してある。後ろに飛び退いてそのまま這いずればいい。

「む……んっ」

 朝霧さまの眉間に、苦しげな縦じわが寄る。

 しわが段々深くなり――。

 よし今だっ!
 がばっと起き上がる瞬間に、それーっと、一気に後ろに飛び跳ねた。

「きゃー」

 袴を掴まれてじたばたしているうちに、朝霧さまの目が覚めたらしい。
 気の抜けた声で「なんだ希々か」と大きく伸びをする。

「ふぁー」

「ちょっと、希々か、じゃないですよ。なんなんですか毎朝毎朝」
 ぶつぶつ文句を言いながら手水鉢を出す。

「そんなんでは後朝(きぬぎぬ)の別れなどできないですよ? 恥をかくのは朝霧さまなんですからね」

「結婚なんぞするもんか」と言って顔を洗った朝霧さまは顔を拭くとムッとする。
「今夜は来るの、明日はあさっては? 考え出しだけで鬱陶しい」

 んまぁ、なんてこと。
 待たされる女の身になれないのかしら。

 貴族の女は生活力がない。依存しても仕方ないのに、どうもこの人は女をバカにしている節がある。