「ふふっ、私もよ。姫さまのおかげですね」

 末吉も梅女も楽しそうに笑う。

「なにを言ってるのこんなときに」とは言ったものの、こんなときだからこそだ。

「よかったね」と忍び笑いが零れる。

「見事でしたな。頭中将の刀さばき、なにかが光ったと思ったらもう、あいつらが倒れてました」

「ほんと、どこから出てきたのか、全然わからなかったわ」

 黒装束なんかしちゃって、まるで夜盗のようだった。貴族にしておくにはもったいないくらい。といったら変だけれど。

「しかし、姫さまも大活躍でしたな。灰袋はしっかり目に命中してましたよ、やつらの顔。くっくっく」

「練習のかいがありましたねっ、姫さま」

「うんうん」

 大きくうなずいた。

 末吉が骨を折られたときから、万が一を考えて、三人で練っていた作戦だった。

 灰が入った袋をぶつけて目を眩まし、末吉が棒で押し倒して、あとはひたすら逃げる。正確に当たるように皆で何度も繰り返し練習もしたし、袋がうまく破けるように改良を重ねたのだ。

「頭中将さま、大丈夫かしら」

「様子を見るだけって言っていましたもの、大丈夫ですよ」
 そうよね……。

 牛車はいくつか角を曲がり、やがてゆっくりと止まった。

「着きましたよ」

 牛飼いに声を掛けられて、降りたところは広い庭の屋敷だ。