「やーっ」
ふたり同時に、懐から取り出した袋を男の目に向けて投げつける。
「うわっ」
次は末吉が竹の棒で押し倒すはずが。
黒装束の朝霧さまが躍り出て、刀を振りかざした。
ドサッという重たい音をたてて男がふたりとも倒れる。
「うっ……」
苦悶の表情の男を足蹴にした朝霧さまは私たちを振り返り、うなずいた。
「さあ早く」
「は、はい」
朝霧さまがあの強そうな男ふたりを、しかも同時に倒した?
一瞬のうちの出来事が俄かに信じられず、ドキドキと胸が高鳴るばかりだ。
振り返って見てみても男らは転がったままで。
見下ろす朝霧さまの影は、闇に溶けていた。
門を出ると彦丸が待っていた。
彼も黒装束を身にまとっている。
「大丈夫ですか?」
「はい」
「じゃ、この牛車に三人とも乗ってください。牛飼いには言ってありますから」
「あ、で、でも」
「いいから早く。大丈夫、後から向かいます」
梅女にも「さあ」と進められて、私たち急いで牛車に乗った。
「末吉、大丈夫? 足が痛い?」
「いえいえ、ただ、われのような下人が乗っても、本当にいいんでしょうか?」
「心配ないわよ。三人って言ったでしょう?」
私たちが乗ると、ギィと音を立てて牛車は動き出す。
最初のうちは心配でじっと耳を澄ませていたけれど、屋敷からは目立つような大きな音は聞こえてこない。
叔母に仕える男のうち強そうなのは、さっきの下男ふたりだけだ。
だからきっと大丈夫だと自分に言って聞かせた。
やがて牛車が角を曲がり、息をひそめていた末吉が、ほっとしたようにため息をつく。
「いやー姫さま、長生きはするもんですな。生まれて初めて牛車に乗りました」
ふたり同時に、懐から取り出した袋を男の目に向けて投げつける。
「うわっ」
次は末吉が竹の棒で押し倒すはずが。
黒装束の朝霧さまが躍り出て、刀を振りかざした。
ドサッという重たい音をたてて男がふたりとも倒れる。
「うっ……」
苦悶の表情の男を足蹴にした朝霧さまは私たちを振り返り、うなずいた。
「さあ早く」
「は、はい」
朝霧さまがあの強そうな男ふたりを、しかも同時に倒した?
一瞬のうちの出来事が俄かに信じられず、ドキドキと胸が高鳴るばかりだ。
振り返って見てみても男らは転がったままで。
見下ろす朝霧さまの影は、闇に溶けていた。
門を出ると彦丸が待っていた。
彼も黒装束を身にまとっている。
「大丈夫ですか?」
「はい」
「じゃ、この牛車に三人とも乗ってください。牛飼いには言ってありますから」
「あ、で、でも」
「いいから早く。大丈夫、後から向かいます」
梅女にも「さあ」と進められて、私たち急いで牛車に乗った。
「末吉、大丈夫? 足が痛い?」
「いえいえ、ただ、われのような下人が乗っても、本当にいいんでしょうか?」
「心配ないわよ。三人って言ったでしょう?」
私たちが乗ると、ギィと音を立てて牛車は動き出す。
最初のうちは心配でじっと耳を澄ませていたけれど、屋敷からは目立つような大きな音は聞こえてこない。
叔母に仕える男のうち強そうなのは、さっきの下男ふたりだけだ。
だからきっと大丈夫だと自分に言って聞かせた。
やがて牛車が角を曲がり、息をひそめていた末吉が、ほっとしたようにため息をつく。
「いやー姫さま、長生きはするもんですな。生まれて初めて牛車に乗りました」