「どうであった?」
「それが、いるともおらぬとも言わず、上がってくれと言うばかりで」

「わかった。とりあえず入ってみよう」

 牛車を下り、屋敷の門をくぐる。
 ぐるりと見回したが人影はない。

 迎えに出たのは前回と同様、年嵩の侍女で、希々と一緒にいた若い侍女の姿はない。

「いらっしゃいませ。さあ、どうぞどうぞ」

 案内されたのは同じ場所で、希々の叔母とその娘が同じ位置に座っている。

「今、肴を用意いたしますので」
「いや、結構。先日の話の返事をもらいに来ただけなので、すぐに帰る。希々姫はいらっしゃるか?」

「まあ、そう言わず」

 邸の中を勝手に探しに行くわけにもいかず、そうこうするうちにまた酒が用意された。
「希々姫は?」と重ねて聞いた。

「寺に行っておりまする。もうじき帰ると思いますので、どうぞお待ちくださいませ」

 そう言われては仕方ない。
 ため息をつくと、また叔母の娘が琴を弾き始めた。

 山吹というこの女は、よほど琴を弾くのが好きなんだろう。先日もこっちの耳が痛くなるほど弾き続けていた。

 音には弾き手の性格が出る。
 自己主張が激しい耳障りな音にうんざりする。
 とにかく我慢してでも、今日こそは希々を前にして話をつけたい。待つと定めて杯を手に取った。

「朝霧さま」
「ん?」

「喉が悪化いたしますぞ」