普通に考えれば喜ばしい話だが、叔母がどう思うのかは想像がつかない。

 考えても仕方がないので、縫物をしながら叔母から呼ばれるのを待った。

 縫物は好きだ。
 母も縫物が得意だった。私も母君のように、もっと上手になりたいと思ううち、いつしか夢中になっていた。

「姫さま、夕餉にしましょう」
 顔を上げると夕焼けが始まっていた。

「ああ、そういえばそんな時間ね」

 琴の音もせず母屋は静かである。

「頭中将は、お帰りになったの?」
「ええ、先ほど」

 呼ばれたのは、食事を終えたころだった。
「希々、奥方さまがお呼びだよ」


 母屋には叔母だけがいた。

「そこへお座り」
「はい」

「お前、あのお方に近づくために泥まで被ったのかい、恥ずかしい子だね」

「いえ違いま」「おだまり!」
 びくっと体が震える。

 飛んできた扇が、手の甲に当たって落ちた。
 痛さのあまり息をのむ。

 激昂したら最後、こういうときの叔母は聞く耳がない。

 女房の話は聞くまでもなかった。叔母は反対なんだろう。

「お前も母親と一緒だね。放っておいたら、どこの誰とも知らぬ男の子を身籠るか、しれたもんじゃない」

 うつむいたままきゅっと唇を噛んだ。
 母を悪く言われるのが辛い。