その様子を、ラグニードはやけに真剣な目で見ていた。そして妙に納得したような口調で言った。
 「おまえ、なんか変わったな、やっぱり」
 「そうか?」
 と返すのは何度目だろうか。ラグニードだけでなく、ボロムにも近頃は同じことを言われている。
 自分ではそれほどに変わった意識はないのだが、長年近くで見てきた彼らは敏感に感じ取っているらしい。具体的に直接言われたことはないが、例えば人当たりや雰囲気が、いくぶん柔らかくなったと思われているようであった。
 ……確かに今までなら、先程のようには怪我人に話しかけていなかったかも知れない。ラグニードがその手の忠告はしているだろうと考えた時点でおそらく、自分から口に出しはしなかっただろう。
 その変化を彼らは、驚きながらも喜ばしいと受け止めているが、同時に疑問と不安も覚えているようだった。原因がはっきりしないせいでもあるが、それだけが理由ではない。
 無意識に視線を手首に落としたアディの動きを、ラグニードは見逃さなかったようだが、何も言わなかった。その位置、服の下に着けている物の存在を彼にはもう知られている。
 ──フィリカが残していった指輪の鎖。アディが首に下げるには少し短かったため、手首に巻き付けている。
 最初にそれに気づいた時、ラグニードは大げさに驚いた顔をしたものだった。そして指輪が女物であるのを見て取り、さらに目を丸くした。
 それでも「何だそれ。何かの記念品か?」と尋ねてきた口調には、まだ多少のからかいが含まれていた。間を置いてから冷静に「預かり物なんだ」と返した後は、その答えが意外だったためか、何も言わなくなったが。
 身に着けているのは、どこかに置いたままにしてなくしたくないのと、それ以上に、もしまた彼女に再会できた時、すぐに返してやるためである。
 手元に置いておきたくないわけではないが、フィリカにとってはやはり大事な物だろうと思うからだ──何年も肌身から離さなかった、家族の形見。
 時間のふとした合間に彼女を思う時、指輪は気まぐれのように時折、一人の女性の姿を見せる。
 明るい青の目を持つ、フィリカに顔も年頃もよく似た女……指輪の元の持ち主、つまり彼女の母親に違いない。長い蜂蜜色の髪は耳の辺りから柔らかく波打ち、風に揺れていた。
 あの夜撫で続けた、フィリカの髪の感触を思い出す。見た目よりも細く、そして柔らかな手触りだった。普通の女並みに長く伸ばしたら、さぞかし綺麗になるだろうと思った……母親と同じように。一度でいいから、その髪に指を絡めてみたいとまで考えた。彼女が髪を長く伸ばすことなど、実際にはないだろうと同時に思いながらも。
 彼女がこの指輪を残していった気持ち。それは、文字通り手に取るようによく分かった──せめて忘れないでいてほしい、覚えていてもらいたいという願い。