目の前の若者を、ボロムは注意深く見ていた。
今は日暮れ時。自宅の居間であり実質的な仕事場でもあるこの部屋で、各種の報告を受けるのは重要な日課だ。現在、請けた仕事に自ら当たることはほとんどなく、各地からの依頼と情報の統括と、集落内のまとめ役としての仕事で日々を過ごしている。
身体を鈍らせないために、訓練を直接つけることもあるが、普段は見分のみで、実際の指導は担当の二人に任せている。彼らの報告内容と自らの見分を総合して適性を判断し、任務を振り分けることが、現在のボロムの主たる役目の一つだった。
──今、見習いの訓練経過の報告に来ているのはアディ一人である。大抵は二人で来るのだが、終了間際に見習いの一人が怪我をしたため、ラグニードはその手当て中ということだった。
「……という状況なんですが」
「そうか。なら、そろそろ実地に出しても良さそうだな」
「そう思います。ああ、その前に一度、国に帰らせてやった方が落ち着くかも知れません。病気の母親のことをずいぶん気にかけているようですから」
そう続けられたアディの言葉に、ボロムは軽く目を見張る。そのまましばし無言でいると、アディはわずかに眉を寄せた。
「何か?」
「いや、別に。その件については本人に確認してみる。もう行っていいぞ」
と言うと、アディはまだ少し訝しげな様子ながらも、素直に頭を下げた。部屋を出ていきかける相手に、話に出た見習いを寄越すようにと付け加える。
一人になり、ボロムはふうと息をついた。近頃続いている複雑な思いを、また感じながら。
アディが、自分から見習いを気遣う発言をするのは珍しい。「能力」の影響もあってどちらかと言えばむしろ目敏い方なのだが、何か気づいてもめったに口には出さないのが通常である。
今は一人での報告だったとはいえ、これまでの傾向からすると、先程の話は聞かれなければ言わなかった類のことだと思う。
──二ヶ月ほど前、情報収集を兼ねてエレニスの連絡所を見に行かせた。アディの様子が変わったのは、その役目から戻ってきた頃からである。
誰が見てもはっきり分かるような変化ではない。良くも悪くも、生真面目で頑固な性質は相変わらずだ。……しかしながら、尖って固いばかりだった雰囲気が、ごくわずかながらも丸みと柔らかさを帯びたようだった。
十数年来「親友」のラグニードに尋ねてみると、同じくそう感じていると答えたので、自分だけの気のせいではない。