フィリカは何か知っている、とその時にほぼ確信した。何が起こったにせよ、ウォルグがどうなったかについてはおそらく知っているのだろうと。
 そして十中八九、件の新入りも無関係ではないのだろう。彼がウォルグの部下で、フィリカが介入した例の件の当事者でもあるが故にそう思う。
 もっとも、たとえフィリカが手を下していても、それは罪にはならないと個人的には考えている。相当な身の危険を感じない限り、彼女がそこまではしないはずだからだ。
 だからレシーはそれ以上追及しなかった。……話を終えた時、フィリカがやはり一瞬だけ見せた、ほっとしたような目の色は今も引っかかってはいるのだが。
 引っかかっていることは、実は他にもある。本音を言えば、そちらの方が気になるぐらいだった──戻ってきてからのフィリカが時折、妙に女っぽく見えるのである。
 これまで彼女に、女としての魅力を感じなかったわけではない。むしろ誰とも違うものを感じるからこそ惹かれているのだが、世間一般的な女らしさとは無縁なのも否定はできなかった。
 今も、どこかが明確に女らしく変化したというわけではないのだが……あえて言うなら雰囲気の違いだろうか。たまに、先程のように何事か考え込んでいるらしい時、やけに憂いているような表情になっている。それだけでなく、切なげにため息をついたりもする。
 その様子は、さながら何かに心を奪われてしまったようで──例えるなら恋煩いみたいだと直感的に思ったが、まさかそれはないだろうと考えた傍から打ち消した。しかし、よく似てはいる。姉妹が多いから、そういう様子は結構見聞きしていたのだ。
 ……一体、何があったのか。
 何度も聞き出そうと試みてはいたが、未だ彼女は何一つ打ち明けてはくれない。どう尋ねてみても、一人で森で迷っていたと言うばかりだった。
 普段に輪をかけて頑固に言い張る様子から、それで通したい余程の理由があるのだろうとは考えるものの、彼女のためになるとは思えなかった。上層部も、同じように疑っているに違いないからだ。フィリカの生真面目な性質は知られていると言っても、状況が状況だけに、無関係と考えてもらえなくても仕方がない。むしろそれが普通の推測だろう。
 そして、ウォルグの父親──末息子の失踪直後から、半狂乱になりかねないほどに心配していると噂になるほどだったイルゼ卿は、元・軍幹部である。今も上層部に影響力を持つはずで、調査結果は詳細まで漏らさずに仕入れているだろう。情報の中にはフィリカとの確執──完全に一方的なものではあるが──も含まれていただろうから、九割方、いやそれ以上の確率で彼女が怪しいと考えているに違いない。
 そうでなければ何故、監視とおぼしき人間が彼女の周辺をうろついているのか。四六時中ではなさそうだったが、それらしき人物を時折見かけている。
 証言が疑わしいと思われていても、フィリカが公然と容疑者扱いされていないのは、そうするに足るだけの証拠が今のところは無いからに違いない。それ故にイルゼ卿の側は、言ってみれば彼女の尻尾をつかもうと躍起になっているのだろう。