奔流のように流れ込む感情に、一瞬より短い時間で思考が飲み込まれ、押し流された。我に返った時にはすでにフィリカを引き寄せ、細い身体を力の限り抱きしめていた。
彼女の感情が驚きと困惑、そして怯えに変わっていくのを分かっていながら放す気にはなれなかった……そう、確かに当初は怯えていた。アディの行動に常ならぬものを感じ取ったからだろう。
だから、嫌がる素振りを少しでも見せたならすぐに腕を解くつもりでいた。その時、今までで最も強い衝動を感じていたのは確かだったが、無理強いする気はなかったから。
だが抱きしめているうちに、フィリカの心は再び変化していったのだ。戸惑いも怯えも短い間に消えて、手を握ってきた時の想い──できればこのままこうしていたい、離れたくないという感情に。
そして硬直していた彼女が、ためらいがちな動きでではあったが、アディの背中に腕を回してきた。まだまともに動かせないはずの右腕にも懸命の力を込めて、抱擁を返してきたのだった。
それ以降のことははっきりとは覚えていない──ともかく、次に冷静さが戻ってきた時には、全てが終わっていた。
直に触れ合う肌はまだ汗ばんでいて熱く、荒い息遣いと速い鼓動がやけに大きく聞こえた。手探りで触れた彼女の頬には、涙の名残が感じられた。
自分がどんなふうにフィリカに触れ、動いたのか……思い返しても、ぼんやりとした記憶しか浮かんでこない。
優しくできたのかどうかも定かではない。
いや、少なくとも最初のうちはそのつもりで、だから慎重にしていた。フィリカに経験がないのは分かっていたから、ただでさえ感じているであろう不安を増幅させたくはなかったのだ。
だが次第に、彼女を求める衝動の方が強くなっていき……身体を繋げてからは特に、理性の入る隙はほとんどないと言っていい状態になってしまった。
最初以降の何回かでさえ、女を抱いていて我を忘れたりはしなかった──正しくは、意識してそんな状態に陥らないようにしてきたのに。
視える時には防ぎようがないとはいえ、抑制を意識しないよりする方がまだましなのも事実である。もし何か視えたとしても、必要以上に不意打ちを食らった気分にはならずに済む。
当然、フィリカに対しても同じ心構えでいるつもりだった。それなのにいつの間にか忘れていた。ただひたすら、彼女とひとつになりたくて、それだけを思って抱きしめ続けた。
……そして叶った後は、身も心も、今までに経験したことのない充足感で満たされていた。全身を痺れさせる感覚の余韻からしばらくは抜け出せないほどで、それが落ち着いてからやっと、彼女を気遣うことを思い出したのだった。
フィリカはほとんど声を立てなかった。息遣いさえ押し殺し、その瞬間も喉の奥で微かに呻いただけだった。……だが、彼女の指先はかなりの力で、こちらの背中に爪を食い込ませた。歯を食いしばる音も耳に届くほどだったのだから、確実に苦痛は感じていたはずである。