これが昔馴染みのレシーだったなら、遠慮はしたかも知れないが、もっと聞き出す努力をすることだろう。──本当に、まるで気にはならないのだろうか。
何も聞かれないのを居心地悪く、もっと言えば不満に思うなど初めてだ。詮索されるのは嫌いで、普段はそうされないことこそを願っているのに。
四度目か五度目の断りを口にした時点で、ようやくアディは諦めたらしく、このまま逃げた方がいいという話は打ち切った。その代わり、あと二刻は休んでから出発にしろと言った。怒っていくらか不機嫌そうな雰囲気は変わらないままで。
小屋を出たのは結局、陽がずいぶんと高くなってからである。地面は、土の部分はだいぶ乾いているようだが、草や落ち葉に覆われたところはまだ湿っており、滑りやすいように見えた。
それもあってか、数歩前を行くアディの歩みは、昨日以上にゆっくりとしている。そしてこちらを振り返る間隔も心なしか短い。昨日の前科があるから信用されないのは仕方ないが、彼の、突き刺すかのような強い視線には、向けられるたびに落ち着かない気持ちにさせられる。
そんなふうに感じてしまうのには、別の理由もある。夜中に目が覚めて、しばらく起きていた間のことをまた思い返した。
今までにも野営の経験はあるが、三日以上に及んだことはない。加えて雨に濡れた後で、服が肌に貼り付く感覚がさすがに少しばかり不快だったので、濡らした布で身体を、上半身だけでも拭っておきたいと思った。
その時点で小屋の中はかなり暗かったし、アディは見た限りでは眠っているふうだった。それまでの二日間、いつフィリカが目を覚ましても必ず起きている状態だったから、どう考えても相当に疲れているはずだ。それでも、万一彼が起きた時のことを考えて背中を向け、服を脱いでいる間は毛布を羽織っておくことにした。
……しかし、一度だけ毛布が滑り落ちてしまった時には、見られていたかも知れない。その少し前から、彼が目覚めている気配を感じていたからだ。
そうであれば、もしかしたら背中の傷痕にも気づかれたのではないか──暗かったとは言え完全な闇ではなかったし、職業柄アディは人よりも夜目が利く可能性が高い。
だから、彼があの話を蒸し返したのはそれが理由なのか、とは思う。傷の原因は分からなくとも、何かしら不穏なものを感じたのかも知れなかった。
そうだとしても、原因そのものはやはり聞こうとは思わないのか、何も言ってこないが──見られたこと自体確定ではないのだが、八割方は間違いないと考えている。それ故に、全く尋ねてこないアディの態度が、不可解であると同時に不満に思えた。
それほど、こちらの事情は彼にとってどうでもいいことなのだろうか──純粋な疑問に寂しさと苛立ちとが混ざった、表現する言葉を思いつかない感情とともにフィリカが考えた時。