それ以外の、つまり集落に住む独り身の団員は、数名が共同で暮らす宿舎としての家を持つ。アディとラグニードも当然そうしているが、現在は状況が違っていた。
 他の建物を全て通り過ぎた道の先、緩やかな坂を上った一角に、ボロムが住む家屋がある。団長とは言っても、彼は必要以上の格差を好まない性格であり、故に家の造りも大きさも他と大差ない。客間を兼ねた寝室用の部屋が一つ多い程度で、その一室がここ数日、二人が寝起きしている部屋だった。
 先ほど指導していたのは、正式な団員ではなく、その志願者たちである。急に人数が減った時にはこちらから募ることもあるが、現在集まっているのは全員、当人から申し出て、あるいは売り込んできた者ばかりだ。
 そういった入団志願者は例外なく、適性試験を兼ねた訓練を受けさせるため、約半月ここに滞在させるのが決まりである。
 期間内、志望者たちの仮の寝床は、共同宿舎内に分散して与えられる。しかし宿舎自体が広くも多くもないので、今のように七名も来ていると、誰かが他の家に間借りしなければならないという事態も起こる。
 そんな場合の大半は、現在のように、アディたちの一方または二人ともが、ボロムの家に寝泊まりすることが暗黙の了解になっている。志願者の訓練は二人が中心で担当していたし、ほんの子供の頃からこの集団に属しているため、ボロムに対して他の団員ほどには気後れをしない質であるからだった。
 坂を上りきり、家の前にたどり着く。ラグニードが扉を二度叩いて、アディが中からの誰何の声に答えた。
 「入っていいぞ」という声に応じ、扉を開ける。
 中に入るとすぐ、大きな机の周りに椅子が並べられた広い一室になっている。十二・三人が席に着けるこの部屋は、集団内で会議や面談を行なったり、依頼人や客人を迎える際に利用される。
 今はどちらの用件もなかったボロムは、茶らしきものを飲みながら机の上に書類などを広げていた。仕事用の部屋は別にあるのだが、狭い奥に籠るのはあまり好きでないらしい。余程の機密的な事柄でない限り、大抵の作業はこの部屋でやっている。
 「おう、ご苦労」
 書類──と思ったのは手紙だったらしい──を封筒に納めながら、ボロムはまずそう言った。
 他の書類なども手早くまとめて脇に寄せてから、
 「報告を聞こうか」
 無駄口を一切入れずに切り出した。ボロムが視線で促す前に、向かいの位置にある椅子にそれぞれ腰を下ろす。