何回打たれたかは数えなかったから分からない。
痛みに耐性があるとはいえ、途中からはさすがに意識が朦朧としてきた。だが気力を振り絞り、最後までその場には倒れなかった。どちらの意地が長く続くかの勝負になっていたが、最終的には飽きたのか居心地が悪くなったのか、ウォルグが手を止めるのが先だった。
振り返るほどの余裕はなかったので表情は見ていないが、忌々しげな舌打ちは聞こえた。鞭を空中で一振りする音の後、乱暴な足音が後ろへと遠ざかっていった。
それを追いかけて取り巻きが離れていってから、フィリカは上着を羽織った。服に血が染みているのは分かっていたが、そのままで歩き回る方が問題だと思ったからだ。周囲の視線をよそに、虐待されていた下級兵を託してから、その時の本来の行き先へと向かった。その後も何もなかった顔をしていたものの発熱は抑えられず、事を聞きつけてフィリカを探していたレシーに、無理やり薬師の所へ連れて行かれた。
どうにか寝込むまでには至らなかったが、傷のいくつかは背中に残る結果となったことにレシーは憤り、同時に、相手に対して何もできない自分自身を嘆いた。そして、恥をかかされた形のウォルグがこのままで済ませるはずがないから気をつけろと、以後何度も真剣に警告してきた。
フィリカに言わせれば、傷痕自体は気にしてはいないし、今まで直面した難事は自分で何とかしてきたという自負もあった。いくらウォルグとはいえ、所属が違う同階級の兵士に極端な真似を仕掛けては不都合が起きることぐらい分かるだろうと、今から思えば甘いことも考えていた。だからその時は、レシーの心配は有難くも煩わしかったのだ。
──夢の中では、その会話が終わるとすぐに、森の監視に出ていた夜になる。二人一組で見回るのが鉄則で、フィリカは一年目の新入隊員とともに任務に当たっていた。妙に落ち着かなげだった相手の様子を、実地に慣れていないせいだろうと判断して。
他の監視組の気配が遠くなってしばらくした頃、歩いていた場所よりさらに森の奥で、枯れ葉を踏むような音が大きく響いた。怯える新入りをどうにか引き連れ、揃って音のした方へと歩を進めた。
何の姿も見えないが気配は確かにある、と思った時、横の樹の影から何かが飛び出してきた──黒っぽい服と頭巾で正体を隠した、人間だった。
その人物は、フィリカに向かって迷わず剣を振り下ろした。紙一重の差で避けはしたが、その拍子に足元に落ちていた長い枝を踏んでしまい、ほんの少し体勢が崩れた。立て直すまでのわずかな時間消費と、全く予想していなかった油断とで──斜め後ろにいた連れの新入り兵士が、こちらに剣を向けたのに気づくのが遅れた。
身を引ききれず、右腕の負傷を許してしまった。
しばらくは痛みを感じないほどの混乱がフィリカを襲った──連れに向かって、よくやったと不審人物が声をかけたからだ。その声には聞き覚えがあった。そして状況を理解した。