顔はまだひどく汗ばんでいる。そういえば先程、彼女は自分ではほとんど汗を拭っていなかった。
水袋の水で濡らした布で拭いてやりながら、その顔を見つめる。見つけた時にも思ったが、目を閉じていると、彼女の印象はまるで違う。最初に会った時にも感じた通り、元々の顔立ちは儚げな感じである。そのせいか、寝顔は彼女の実年齢──おそらくは二十歳前後──より、何歳か若く見える。女というより少女と表した方がふさわしいぐらいに。
その時ふいに、この容貌こそが、彼女の本質なのだという気がした。繊細で穏やかな美しさと、同時に併せ持つ、瞳に表れる驚嘆すべき強さ。そう思いながら、今の彼女に対しては痛々しさも覚えずにはいられなかった。
腕の傷痕は一生残るだろう。
それが彼女にとって全く辛くないとは思えない。……差別的な意味合いではなく、やはり根本的に男と女は違うのだから。
アディがそう考えた時、彼女の身体が鋭く跳ねるように動いた。静かだった息遣いが、再び荒くなってきたのが耳に届く。
額は先程よりもさらに熱くなっていた。
彼女の荷の中の水袋を確かめると、まだ半分以上は残っている。そちらは非常用に置いておくことにして、アディは再び自分の水袋を開けた。
身体を縮め、彼女は今や激しく震え始めていた。一体、誰にどんな理由でこんな目に遭わされたのかと思いながら、濡らした布を置こうと額に触れる。
その瞬間、腕に激痛が走った。反射的に手を引っこめ、痛んだ箇所を押さえる。
焼けるような痛みはまだ残っている……右の、二の腕に。手を離してみたが、当然何ともなってはいない。
──これは、彼女の記憶だ。
痛みと同時に、頭に浮かんだ光景。初めて視えた彼女の記憶は、まさにその傷を負わされた時のものだった。
彼女は、味方のはずの国軍兵に襲われたのだ。
記憶が新しいせいかあるいは別の理由でか、ともかく今の一瞬で全てが視えた──相手の顔のみならず、何故そうなったのか、真の原因である背後の人物のことまでも。
流れ込んだ記憶の多さに、最近では感じることの少ない目眩を覚える。だがその辛さよりも、彼女を傷つけた相手への憤りの方が大きかった。
彼女がこんな目に遭わなければいけない理由は、何一つなかったのだ──あまりにも理不尽だった。
あれだけはっきり、細かい部分まで視えたということは、ほぼ確実に今、そのことを夢に見ているのだろう。苦しげな呼吸を続ける彼女の様子に、たまらない気持ちになる。