どうにかそれだけは口にした。だが、
 「強がらないでください。立ってるだけでも楽じゃないでしょう」
 間髪入れずにそう返される。……確かに、立ち上がった途端にまた薬物が作用してきたようで、頭も足も安定しているとは言い難かった。
 一人で全く歩けないほどではないと思うのも本当だったが、彼女の口調にはこちらに四の五の言わせない、言う気をなくさせるだけの毅然とした響きがあった。
 巡回兵士たちが四人組を引っ立てていくのを横目に見ながら、アディは大人しく肩を借りた格好で、女兵士に付き従った。彼女になるべく体重をかけないよう、だがあからさまに力を抜くことなしに歩く努力をしながら。
 人混みを縫うように──といっても多くの場合、向こうが目を丸くしつつ避けてくれたが──しばらく歩き、路地を少し入った先の建物にたどり着く。
 表通りと比べると、幾分寂れた印象を与える商店が点在している。その中にあっても目立たない、灰色の壁の一点には小さな看板が掛けられていた。
 ──カラゼス第三診療所、と読める。アレイザス他近隣の国でもそうだが、首都のような大きな町には大抵、公営の診療所がいくつか設置されている。ここもその一つなのだろう。
 アディを支えたままの状態で、女兵士はその扉を二回叩く。軽い足音とともに扉を開けたのは、十歳になるかならないかの少女だった。
 「こんにちは。先生はいる?」
 「あ、はい」
 状況を見て取って、少女は扉を全身で押さえ、訪問者が通れるようにする。二人が室内に入ったのを確認して扉を閉め、奥に向かって声をかけた。
 「おじいちゃーん、患者さんだよ」
 しばらくして奥の部屋から出てきたのは、半ば白髪の初老の男。どうやら彼がここの薬師らしい。
 薬師の男はこちらを見て「おや」とは言ったが、さほど驚いている様子はなかった。少女の反応も似たようなものだったことを考えると、こういう状況には慣れているようである。
 「今日はまた変わった人を連れてるね。どうしたんだい?」
 「例の奴らがまた現れたんです。やっと捕まえたんですけど、この人が怪我を負ってしまって」
 手近な椅子にアディを座らせながら、女兵士は事情を説明した。会話から察するに、彼女はこの診療所に比較的馴染みがあるらしい。
 そしてあの四人組はここ数ヶ月、市が立つ日や祭りのたびに現れては、行き会った相手に因縁をつけ金品を巻き上げたり、先程のような手段を用いて痛めつけていた連中だと、話を聞くうちに知った。
 「あの痺れ薬にしては回りが早すぎる気がしましたけど、症状はよく似ていました。これとこれを調べて頂ければはっきりすると思うんですけど」