にわかに暑くなり始めた日差しが、時間の経過を否応なしに教える。また夏が近づいているのだ。
アディは、ギルアの町の入り口でしばし足を止めた。やはりまだ、躊躇する気持ちが残っている。
この町へ来るのは本当に久しぶりである──ほぼ一年、わざと寄り付かなかったのだから当然だが。たまの仕事の際も、近くを通ることはできるだけ避けていた。
理由は、言うまでもない。彼女のことを連想せずにはいられないからだ。……その後どうなったのかを、手紙で尋ねることさえしていない。幸いにというか、カジェリンの方からも報せが来ることはなかった──しばらくの間は。
半年ほど前から、二月に一度ぐらいの割で手紙が来るようになった。暇ができたらすぐに寄るようにと、文面はいつも同じだ。
これまでにもカジェリンに無沙汰をしていたことは何度かある。長くても半年程度で、一年近くというのは確かに初めてだったが、手紙で立ち寄りを催促されることも今までには例がない。
何かあるのかと考えないわけではなかったが、どうにも怖い想像しか浮かばないため、最近では手紙の存在自体を無視し続けていた。
無視できなくなったのは、二日前のこと。手紙が今度は、別便でボロム宛にも届いたのである。
ボロムは一読後、すぐにアディを呼びつけた。
「何だか分からんが、来なかったら絶対後悔すると脅してやってくれ、とか書いてあったぞ。おまえ、何かやったのか?」
面白がっている様子も多少はあったが、基本的には訳が分からないといった口調で、彼も首を傾げていた。どうやらボロム宛の手紙にも、カジェリンは理由を書かなかったらしい。
「まあともかく、今は見習いの状態も落ち着いてるからラグに任せて、報告集めついでに行ってこい。女と薬師は怒らせない方がいいからな」
最後の部分は冗談混じりながら、大半は真面目にボロムはそう言った。彼は当然、薬師と患者としてだけでないカジェリンとの繋がりを知っている──そもそも、そうなることを目的でボロムが引き合わせたのだった。
だから、カジェリンがわざわざ呼び寄せようとするなら相応の理由があるはずだと、彼は判断したらしい。確かに、アディ自身もそうは思うが……なにぶん、どうしても足を向けづらい思いもある。
一年前の件に関しては、集落に戻ってすぐ、釈明の意味でボロムにも、大筋は告白している。形ばかりの説教はされたが、有難いことにそれ以上追及されることはなかった。