手紙はごく短く、カジェリンに今後のことは頼んだから心配はいらない旨が書かれており──迷惑をかけてすまなかった、と結ばれていた。その最後の文章に、胸を突かれる思いがした。
何一つ、迷惑だとは思っていない。全て自分で、納得して選んだことだった。だからアディが罪悪感を覚える必要はないのだと──そう言う機会すら、彼は与えてくれないまま去ってしまった。つまりはそれが彼の気持ちなのか。
「……ちょっと気が引けるんだけど、でも早めに話した方がいいと思うから。ごめんなさいね」
と切り出されたカジェリンの話に、さらに打ちのめされる心地がした。アディは、子供は産まないでいてほしいと言ったのだという。
「でもね、それはあなたが思うような意味でじゃなくて、別の理由があるのよ」
そして、長い話を聞かされた。カジェリンの生家の、先祖返りとも言える現象の話。並外れて強い能力を持っていた彼女の姉が、自ら命を絶ったこと。その衝撃を引きずり、自らの子供を産まず堕ろしてしまったカジェリンの過去。
それらのことは、出会ったばかりの頃、アディにも話す機会があったのだという。
「だから、彼も本気で心配しているの。子供に力が遺伝するかも知れないって──彼の能力のことは、もう知っているのよね?」
頷くと、カジェリンも同じように頷き返した。
「彼も、力は強い方だから……そのせいでずっと苦労してきたから。あなたに同じ思いはさせたくないのよ」
カジェリンが続けた話に、さらに衝撃を覚える。幼い頃から能力を発現させていたアディが、そのために両親にも疎まれ、捨てられたのだということ……母親が、まだ五歳の彼を、森林地帯のあの森に置き去りにした事実。
幼い頃のことをアディが話したがらなかったのは何故なのか、それで分かった。たった五歳で、実の親に捨てられたなどとは──他人に話すどころか、できれば忘れてしまいたいことに違いない。
そして、彼が案じる理由も納得できた。もし、生まれる子供にも能力があったら、同じことになるかも知れないと思っているのだ。
普通の子供と同じく愛しんで、身近に置けるのか──さらに、その子が自分を厭う人間にならないように育てていけるのか。
「……それで、あなたはどうしようと思う?」
と尋ねる彼女の声は穏やかだったが、表情はひどく真剣だった──彼女も、産むことは勧められないと考えているのだろうと思った。声に無理強いする響きはない。だが、彼女自身それを恐れて、子供を産まなかった経験がある。
そして、早いうちにどうするか決めるべきだと、その目が言っていた。彼女の診断では四ヵ月目で、できるだけ安全に処置するには限界に近い時期なのだという。……決意しなければならなかった。それも、今すぐに。