先程より長い沈黙の後、あのね、と再びカジェリンの方から口を開いた。
 「最初にあの子の顔を見た時、何だか見覚えがある気がしたのよ。その時は女の子だと思わなかったから、どうしてか分からなかったんだけど──」
 そこで言葉を切り、小さく頷いた。考えを、口に出す前に自分自身に確信させるかのように。
 「そのことと、今のあなたの表情で、はっきり思い出したわ。……昔視た、今ぐらいに成長したあなたと一緒にいた娘に、そっくりだった」
 十年前、知り合った頃にカジェリンが視たというアディの未来──いずれ必ず、愛し愛される女に出会えるという「先読み」。コルゼラウデの女王ほどに強くはないが同じ能力を、この女薬師も持っている。
 だが正直、その「先読み」を思い出したことは、ほとんどなかった。フィリカに出会うまでは。
 彼女に心が傾いていくのを自覚してからは、何度か頭に浮かぶことはあったが、結びつけて考えるのは意識的に避けていた。彼女がアディに好意を感じていても、それは一緒にいる間だけのものでしかないと……フィリカがこちらを受け入れた後でさえ、そう思おうとしていたから。
 「彼女を、愛してるのね」
 探るような目で見つめながら、カジェリンは半ば呟くように言った。喜びが二割、残り八割には気遣いと懸念が混ざっている、そんな口調で。
 「半日かそこらは、目を覚まさないかも知れないけど──どんな事情で、こういうことになったの」
 アディは説明した。彼女との出会いからなるべく簡潔に、だが何も隠すことはなく。フィリカが軍人だったという点に少し驚いた程度で、話のほとんどの部分を、カジェリンは極めて落ち着いた様子で聞いていた。
 「そう。……それで、これからどうするつもり? もうコルゼラウデに帰る気はないんでしょう」
 「だから、ここに連れて来たんだ、彼女が落ち着くまで、面倒見てもらえればと思って。……子供は、産まないように説得してやってほしい」
 その発言に、カジェリンは眉を寄せた。
 「面倒見るのは構わないけど。説得は、あなたがするべきだと思うわよ──産んでほしくないのなら。彼女、フィリカさん? あの子があんな状態で流産してないのは、くどいようだけど奇跡に近いのよ。彼女がどれだけ必死に子供を守ろうとしてたか──それがどうしてなのか、想像もできないほど馬鹿なわけじゃないわよね?」
 辛辣な言い方に、しばらく言葉が返せない。もちろん、嫌と言うほど分かっていた──だが。
 「……けど、産まない方がいいのはあんたならよく分かってるだろう。子供に能力が遺伝する可能性がないわけじゃないって。それに……彼女が起きるまで待つつもりはないから」