父が、あれほどに頑なに厳しく、娘を軍人にしようとした──そしてロズリーがそれを止めなかった理由は、何だったのか。
フィリカが生まれる以前から、頼れる身内は他にいなかった。父の親族は皆すでに亡くなっていて、母の実家からは縁を切られていたからだ。
そんな状況下で、フィリカが一人で残されたらどうなるか……女一人で生きていくのは容易なことではない。どこかの家と縁組をするにも、それなりの金銭が必要である。ろくに持参金のない娘をもらおうという奇特な家が、簡単に見つかるはずもない。
どこにも頼る当てのない女の行き着く先──若ければ若いほど、そして容貌が際立っているならなおさら、それがどういう将来であるかは目に見えている。
先のこと、つまり長く生きられない未来を、父やロズリーが察していたとまではさすがに思わない。だが、いずれはフィリカを残して彼らが逝くのは、順当に考えれば当然のことに違いなかった。
その時が来ても、フィリカが一人で生きていけるように……いたずらに身を持ち崩すことのないようにと、考えてくれた末の結論だったのだろう。
そういう願いを、形は違えど、裏切る結果になってしまった。今となっては、もはや彼らに知られる心配がないことだけが救いだ。
自分が招き、そして選んだ末の現状である。だからもう、受け入れるより仕方ないのだと思っている──レシー・ホルトにも、そう言った。
今も、毎日のように再尋問の申請をしたり、そのためにあちこち駆け回ったりしているのだろうか。そんなことをしてもどうにもならないのに。
レシーは最初の面会時から、フィリカにかけられた容疑を信じていないと言いきった。だから本当のことを話せと促してきた。何とか公正な取り調べが行われるよう申請してみるから、とも。
その後も面会に訪れるたび、同じことを言った。言葉少ななフィリカと、一向に申請が通らないらしい状況に苛立つ様子を見せながらも、辛抱強く。
彼が、本気で行動してくれていることは分かる。だからこそ、無駄なことは止めてほしいとも、心底から思う。イルゼ家が関わっている以上、彼一人で事態を変えられるわけがないのだから。
最終的にどうする心積もりなのか分からないが、何にせよ、フィリカを釈放するという選択肢はないだろう。再尋問の申請も、為されていないものとして扱われているに違いない。
そう口に出して言っても、レシーは諦める様子を見せなかった。逆に、発奮したようでさえあった。
だから最近は、面会の申し出があっても拒否している。自分のために無駄な努力を続ける彼の姿を、見るのが辛くなってしまったから──もう、諦めてほしかった。何もかも。
フィリカ自身はすでに、ここから無事に出られるという希望は持っていない。そんな可能性はあり得ないだろう。おそらくは万に一つも。

