最初に顔を合わせた瞬間から、少年はあからさまな侮蔑と嫌悪を隠しはしなかったし、それを言葉にも出した。
「おまえ、鬱陶しいから近寄るな」
年の割には幼く、他人への気遣いを知らない喋り方。若様、と傍にいたお守り役が形だけたしなめてはいたが彼も、同じく近くにいた元々の護衛役も、アディに対して不快感を少なからず感じているのは見て取れた。
様々な意味で気が進まなくはあった。しかし外での仕事をしばらく請けておらず、加えて今回のように報酬額の大きい依頼は集団全体でも最近少なかったため、拒否の選択肢は最初から除外していた。
──そして今、アディはなるべく目立たぬよう、さりげなく人混みの一部になろうと努力している。十数歩分の先を行く、少年とお付きの姿を常に視界に入れながら。
若様曰く、でかい上に無愛想なのに付いて歩かれると目立つし鬱陶しくて仕方ないそうで、お付きの二人は黙ってはいたが、それに近い考えであるのは明らかだった。
確かに、周囲より頭半分は高い長身は目立たない方が難しいと自覚しているし、無愛想なのも否定はしない。だからと言って職務放棄ができるはずもなく、お付きたちには一応断った上で(良い顔をしていたとは言い難いが)、こんなふうに後を付けているわけである。せめて髪を隠す物をかぶろうかとも思ったが、余計に目立つ気がしたのでやめた。
背丈に加えて白く見えるほど薄い金の髪、そして剣を帯びた姿はどう気配を抑えていてもそれなりに人目は引く。視線を向けられるたび、相手の好奇心や詮索の思いを全身で感じ取った。
こういう、誰もが多かれ少なかれ興奮している場では、人の思考や感情も解放されて表に出やすい。言動としての表出の意味合いだけでなく、能力で感じ取る確率も高くなるのだ。誰のものとも分からない記憶や感情が、油断すると不意打ちで視えてくるので、その意味でも今は気を緩められなかった。
通常はさほど、頻繁には発動しない。幼い頃は何も視聴きしないことの方が珍しかったが、十歳を超えたあたりから少しずつ、直接に触れた時でも、何かが視えたりする頻度は下がっていった。
今現在、この能力が働くのは相手の関心がこちらに向けられている場合、あるいは相手の感情が余程に強い場合などが主である。そういう時は接触すればほぼ確実に何か視たり聴いたりするし──直接に触れなくとも、相手に対して意識を集中させるだけでもある程度は可能である。その場合、接触した時ほどには具体的に感じ取れないのだが。
意識して使える能力じゃない、とボロムに言ったのは嘘ではないが、完全な真実でもなかった。それにアディ自身が気づいたのは、能力の発動頻度が落ちてきた頃だから十年以上前になる。……そして、気づいてすぐ、厄介なだけだったこの能力がボロムのために役立てられると思った──だからそうしようと心に決めた。