……そういった話を、アディはボロムから、及びボロムを通して知り合った女薬師から聞かされている。伝説の三十日に当たる時期は収穫の頃合いでもあり、この時期のコルゼラウデはほぼ毎日、国のどこかで祭りが催される季節だった。
首都で五日間続く大祭の期間、アディは祭りに浮かれる人々の中にいた。町の商店を始め、国内外の行商人もこぞって町の至る所に店を広げている。少し開けた場所では芸人などの催しが行なわれ、人々が混み合っていない所はないように思われた。
集落を発ってから、一月近くが過ぎている。
入団を認めすぐに任務を与えるという話を、あの二人──レムニスとナージンは拍子抜けするほど簡単に信じた。そしてベルガナの隣国ロサーノに向かうと見せかけてベルガナ国境付近を通過し、そこで待機していた連絡員を通じて、二人を追っていた町の自警団に引き渡すまでに、大した手間はかからなかった。
その直後、再び連絡員に会った際、アディとラグニードそれぞれに仕事の依頼が来ていると聞かされたのだ。ボロムからの手紙によれば、アディはある貴族の子息の護衛、ラグニードには行商人が森林地帯を通過する際の案内役。数カ国の国境に跨がる広大な森は、各国を行き来する際の近道ではあるが、同時に迷いやすく危険を伴う場所でもある。それ故に傭兵団では定期的に、森に入って数日過ごす訓練を行なっている。今回のような依頼は少なくないため、森に慣れて活用する方法を身に付ける目的で。
各々の内容を知ったラグニードは、そっちと交替しようかと半ば本気の様子で提案した。子供のお守りなど、色々な意味でアディには無理があると考えたのだろう。自分でもそう思う。しかし件の行商人は以前に依頼を請け負ったラグニードをわざわざ指名してきたというし、貴族の方からは一番腕の立つ人間を寄越すように言ってきていると書かれていたので、結局は指令通りに請けるしかなかったのである。
行商人はベルガナ国内にいたため、ラグニードとはそこで別れた。アディは一人で再び山と森を越えて、手紙に書かれていた場所へ向かった──ここ、コルゼラウデの首都・カラゼスに。
十日前、この町にいる連絡員に引き合わされた依頼人は、祭りが終わるまでの期間、一人息子を護衛してほしいと言った。首都に出てきたのは今年が初めてであるため、いろいろ不慣れなのだという。
要するに、甘やかされて育った我が儘息子なのだと、本人に会っていくらも経たないうちに結論づけた。加えて、お守り役と護衛役はすでに一人ずつ付いていたのだが、彼らだけでは不安があると思われたらしい。長年その役に付いているという二人が、ともすれば子供のご機嫌取りを重視するきらいがあるのは見ているだけで分かった。
しかし当の子供のみならず、自身にも問題があるという自覚は依頼人にはないようだ。貴族としての格は低いが金には困っていないらしく、物事は全て金で解決できると考えていた。そして雇う者に技術は最大限に要求するが、人間的に扱うことにはあまり重きを置いていない。その考え方は息子にもしっかり、おそらくは倍増して染み付いている。