月乃さんが連れていってくれた場所はどこも、紛れもなく作中の場所だった。
 図書館、市役所ビル、交番、公園、ひっそりと佇む純喫茶、話をしたあの川辺……
 だけど。
 小説と繋いで見ているのはどこに行っても僕たちだけで、行く先々で会う関係者には煙たがられるばかりだった。

 こんな田舎町が? そんなはずない。そうだとしても、そんな本でなんか逆に迷惑だ。
 周囲のいつもの野次。
 でも、楽しかった。
 星也くんもそうならいいのに。
 最後の日、彼は笑顔でお礼を言った。
「月乃さんのおかげです」
 そう言う彼は前と違う照れ方をしている気がした。
 何? ちょっと調子狂うじゃない。