僕はその本を読み、一気に引き込まれた。
 どのページ、どのシーンでも、まさに「そこにいた」。
 小説の中でこの体感なのだ。もし「本物」があるのなら……
 だけど検索しても、月乃さんが話した作品の舞台についての推測は何もなかった。
 勇気を出して学校で聞いてみたら「変なその子の妄想」と一蹴された。

 星也くんが、あの小説について同級生に尋ねる場を目撃した。
 意識して通り過ぎると、いつもの陰口。
 親に捨てられたっぽい。でかい家に一人暮らし中だよ? 誰かが貢いでるんじゃないの。顔だけはやたらいいもんね。
 痛みに蓋をしようとした昼休み、星也くんに呼び止められた。
 聖地巡りの誘いだった。