「ほら、ここに君がいるよ」
 月乃(つきの)さんはそう言うと、僕に押しつけていた文庫を先へ捲った。
 そして目当てらしいページに来るとニコッと笑って「読んでみな」と言った。
 真昼の川辺、夏の風が彼女の長い髪をさらう。
 一つ先輩の月乃さんは聞いた通り、可愛くて活発、だけど少し変わった人だった。

 そのワンシーンを示して隣に座ると、星也(せいや)くんは少し顔を赤くした。
 おお、戸惑ってるな。可愛い。
「何? そんなにびっくりしなくても」
「いや、だって、いきなりこんな……」
 そのうろたえぶりに、私はつい笑顔になる。
「ごめんね! 君があまりにそのまんまだったから、つい」