空は、雲一つなく晴れ渡っている。
けれど晴天の空を見上げる、有末ミキの心は重く晴れない。
ミキの手には、お小遣いをためて買ったハンカチが握られていた。
「私、まだおばあちゃんにプレゼントを渡していないのに」
ミキの目には、涙の膜が張っていた。
ミキがグッと瞼を閉じれば、溢れた涙が珠になって目尻から頬を伝って地面に落ちた。
「私はまだ、おばあちゃんが居ないとダメだよ。一人のお留守番は、寂しいよ」
喪服に身を包んだ大人達の人だかりを背に、聞く者の無いミキの呟きが宙に溶けた。

有末ミキは今年、小学校6年生になった。
共働きの両親に代わり、同居するおばあちゃんが食事や身の回りの世話をしてくれた。ミキにとっておばあちゃんはよき話し相手であり、理解者でもあった。
大人と子供の狭間、揺れ動くミキの心に、いつだっておばあちゃんは寄り添ってくれた。
これまでは気恥ずかしさや照れがあり、面と向かって感謝を口にした事はなかったが、雑貨屋さんで奇麗なハンカチを見つけた時、おばあちゃんに似合いそうだと思った。
ちょうど敬老の日が、二週間後に迫っていた。
ミキは日頃の感謝を込めて、おばあちゃんにハンカチをプレゼントする事にした。これまでためてきたお小遣いを全て注ぎ込む事に、迷いはなかった。
ハンカチの隅には、おばあちゃんから教わった刺繍で、おばあちゃんの名前を刺した。
(なのにおばあちゃん、どうして?)
突然の事故で、おばあちゃんは帰らぬ人になった。敬老の日は、三日後だった。
「ミキ、おばあちゃんに最期のお別れをしてあげて?」
澄みきった空をぼんやりと見上げていれば、ポンっと肩が叩かれた。
「お母さん……」
見れば喪服に身を包み、目に涙を溜めたお母さんが、いつの間にかミキの隣に立っていた。
「ねぇお母さん、おばあちゃんの棺にこれを、一緒に入れてもいい?」
ミキは手に握り締めたハンカチを、そっと持ち上げた。
お母さんは小さく頷いた。
「おばあちゃん、きっと天国で喜ぶわ」
「うん」
ぎゅっと、胸にハンカチを抱き締めた。
ミキはお母さんに肩を抱かれ、おばあちゃんとの最期の別れをするために斎場に向かった。