「写真、SNSにアップするので、見てくださいねー」
「素敵なお店だったって宣伝しておきます!」
「はい、ありがとうございました。またどうぞ」

 結局女性客の二人は、古城市の市花であるスミレの絵が彫られた小さな木工品の手鏡を揃いで買っていった。
 彼女達を店の外まで見送り、そのまま表の暖簾を下ろして店仕舞いする。まだ夕方にもならない時間だが、心が騒いでしまって店の営業どころではなかった。

 硝子の風鈴がチリン、チリリンと鳴って、またすうっと風が流れはじめる。透が振り返ると、少女――ホタルはやはりレジの前に突っ立って、貝殻細工の写真立てを見つめていた。

「今、店を閉めちゃうから、ちょっと待っててな。それから話聞くから」
「…………」

 手早くレジを締め、店内を簡単に片づける。そして、ホタルを連れてバックヤードから裏庭に出た。

 古めかしい建物や土蔵に囲まれた狭い裏庭の奥に、祖母の住居がある。透が間借りしている小さな古民家だ。さっきの客はほたるび骨董店を古民家と言っていたが、あれは店舗建築なので正確にはこちらの居住スペースが古民家だろう。

 ホタルを八畳ほどの座敷に案内して、窓を開け放つ。さすがに熱気がこもっている。

「そこ、座って。あー、うちにジュースとかないな……。麦茶でいいかな?」
「うん。麦茶好き」

 ふわっと花が咲いたように、ホタルが無邪気に笑った。ずっと無表情だった子供が初めて見せた笑顔に少し感動する。なんだ、子供らしい顔もできるんじゃないか。

 氷を入れた麦茶を用意して、座敷に戻った。
 昔ながらの造りのこの家はリビングルームやダイニングルームという区分けもなく、和室が田の字型に四部屋並んでいる。庭に面したひと部屋を祖母が寝室として使い、その隣が茶の間、日当たりの悪い奥の部屋を透が寝室にしていた。