「写真はないよ。きみはフォトフレームが欲しいの?」
「ううん、いらない。そこにあった写真が欲しいの」
「困ったなぁ。写真は元からなかったはずだよ」
「ずっと探してるの。大事な写真なの」
表情の乏しかった少女の顔に、初めて焦りのような色が見えた。眉を八の字にして、高い声も心なしか早口になっている。
少し可哀想になって、透は少女にうなずいた。
「じゃあ、ちょっと待ってね。台帳を見てみるから」
「……ありがとう」
商品番号を確認し、席を立つ。
店の裏の倉庫には、祖母が記した古物の売買の記録がずらりと並んでいた。祖母はパソコンなど使えなかったので、すべて手書きだ。
祖母は先日引退したけれどまだまだ健在で、今は店を営んでいたころには行けなかった長期の旅行に出かけている。
今年になって透が東京の会社を辞めようと考えていることを知り、ほたるび骨董店を継がないかと誘ってきたのは祖母だ。自分のような消極的な男に自営業ができるかどうか……自信はなかったが、幼いころから世話になってきた祖母に少しは恩返しがしたかった。
透は商品番号と照らし合わせて該当の台帳を抜き出すと、店に戻った。栗色の髪の少女は先ほどと寸分違わず同じ姿で佇んでいた。
いつも店の中を流れている高原の風は相変わらずやんだままで、額に少し汗が浮かぶ。
「おまたせ。今、調べてみるからね」
こくりとうなずくと、少女はレジ台の上のグラスをじっと見つめた。炭酸水を飲み終えたあと、置きっぱなしにしていた。グラスは汗をかいているが、祖母愛用の端切れのコースターが水滴を吸い取ってくれている。
不思議な雰囲気のある女の子だった。
子供らしい日焼けあとのない透けるような白い肌には、汗ひとつ浮いていない。大きな二重の目は幾分異国の血を感じさせた。
そして、美しいと言ってもいいほどの顔立ちなのに、その服装はどこか古くさい。弟妹も子供も、恋人すらいない独身の透はまったく詳しくはないが、今どきの子供はもっと華やかに装っている気がする。