「わぁ、本物の古民家なんだぁ」
「写真撮ってもいいですか? SNS映えしそう」

 女性達のテンションが上がる。透が愛想よく許可を出すと、あちこちにスマートフォンを向けて写真を撮りはじめた。
 土産物の一つでも購入してくれればいいか、と透は苦笑して、少し気の抜けた炭酸水を飲み干した。

 午後二時半。
 そよりそよりと流れていた風が、いつの間にか消えていた。遠くからチィーチィーと蝉の高い鳴き声が聞こえてくる。
 急に、暑くなった気がした。

 入り口の暖簾の脇に掛けてある硝子の風鈴が、涼しげな音を立てる。風もないのに……と思って視線を上げると、レジの前に少女がつくねんと立っていた。

「いらっしゃい」
「…………」

 可愛らしい女の子だ。
 十歳くらいだろうか。柔らかそうな栗色の髪に、色白の肌、整った目鼻立ち。子役のモデルのようだ。

「親御さんのお使い?」

 透は怪訝に思いつつ少女に声をかけた。もう小学校は夏休みだったかな?

 小学生の下校時間にはまだ少し早い時刻だった。ランドセルや荷物も持っていないし、そもそもこの骨董店には、子供が遊びに来ても楽しめる物は何もない。

 少女の背後では、先ほどの女性客がこちらにスマートフォンのカメラを向けていた。透が小さく笑って頭を下げると、「……くんみたいね」「あの俳優さんに似てるよね」と彼女達は興奮したような声を抑えて、ひそひそとささやきあっている。

 少女はなんの物音も聞こえていないみたいに、透を静かに見つめていた。

「どうしたの? うちの店に、何か用があるのかな?」

 透が辛抱強く話しかけると、少女が小さな声でつぶやいた。

「写真を探しているの」
「写真?」
「うん……。そのフォトフレームに入っていた写真」

 細い指が透の後ろの棚を指さす。
 レジの奥には、古い額縁や写真立てが並べられていた。木工職人が彫った一点物の額縁から、古布の入った手ぬぐい額縁、ちょっとレトロな昭和時代の写真立てまで玉石混交の品々だ。

 少女が言っているのは、比較的新しい貝殻細工のもののようだった。中には色褪せて黄ばんだ紙だけが挟まっている。